2005/08/31

『アイランド』"Island"


--完全にネタバレ--

設定が大変興味深いので、描かれていないことまでいろいろ考えて、想像をふくらませてしまった。自分の臓器が必要になった時の保険として莫大な料金を払いクローンを作って育てておく。実におもしろい設定だ。

何百億ドルというお金を払える人たちだから、それぞれに何かしら特異な才能を持っているはず。そのDNAを受け継いだ個性的なクローンを大量に、大過なく、正しく禁欲的な生活で"飼って"おけるはずがない。たとえ「アイランド」という夢を与え、外が汚染されているという恐怖を与えたとしても難しい話だろう。しかし、体は大人であっても、純粋培養されて生まれ、まだ数年しか生きていない人たちの精神は実に純粋だ。

…というところには引き込まれ、魅せられた。しかし、この映画、アクションものなのだ。いやぁそこまではやらないだろう。え!…あそこをどうやって生き延びてきたんだ。なんで彼はまだ普通に歩けるんだ……の連続。

この映画、ニューヨークのタイムズスクエア近くの映画館で見たのだが、観客の反応が良いので楽しみが倍増した。私が、「まさかそれはないだろう」と思うと、同じように思っている観客がちゃんとそういう笑い声を上げてくれるのだ。手に汗握りつつ、夢あり、恋あり、冒険あり、そこまでやるか、まさかぁというところも、スカッと楽しませてもらえた。これは反応の良い観客と一緒に大スクリーンで見る映画としては最高だ。

少ししか出てこないスティーブ・ブシェミの存在感はすばらしかった。教育を受けないために何も知らないクローンが「神って?」と問うのに答えて、「こうあったらいいなあと胸の奥底から願った時、かならずそれを無視するやつのことさ」と答えたセリフがクスッと笑えた。

2005年 監督:マイケル・ベイ(『アルマゲドン』『ザ・ロック』)/ユアン・マクレガー(『ムーラン・ルージュ』)/スカーレット・ヨハンソン「真珠の耳飾りの少女」「ロスト・イン・トランスレーション」「理由」/スティーブ・ブシェミ(『ビッグ・フィッシュ』『ビッグ・リボウスキ』『アルマゲドン』『ウェディング・シンガー』)/ショーン・ビーン「フライトプラン

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2005/01/23

『クローン』 "Impostor"

-=-=-ネタバレは下のほうで反転表示-=-=-

 ケンタウリ星人との戦いにより、環境が破壊された地球。ひとびとはドームに守られた都市での生活を強いられている。主人公スペンサーは優秀な科学者。

 そのスペンサーにケンタウリ星から送り込まれた人間爆弾ではないかという嫌疑が掛けられる。権力の手によって生きたまま心臓から爆弾がえぐり取られそうになるが、危機一髪のところで逃げ出す。この人間爆弾というものは攻撃対象となる人物の近くで反応すると、自爆するという仕掛けがされていること以外は、記憶も肉体もDNAもすべて元の人間と同じに作られている。

 スペンサーは自分が人間なのか、あるいは人間だと信じるようにプログラムされている人間爆弾なのか不安を持ったまま逃げることになる。

 納得できないところはいっぱいあるのに、ゲイリー・シニーズの真剣に苦悩する表情と、薬による幻想とも薄く残っている記憶ともつかないフラッシュバックのような映像を見ていると、「自分は何者なのか」という根元的な不安がしっかりと伝わってくる。

 ここからネタバレ、反転させて読んでください→爆発する仕掛けが、実は「自分が何者かを知った時」であったことに気付いた時、私は絶句してしまった。だから、「俺は爆弾じゃない!」と叫んでいる被疑者から心臓をえぐり取って、爆弾を処理する必要があったわけだったのか。
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2001年
監督:ゲイリー・フレダー
スペンサー/ゲイリー・シニーズ(「白いカラス」「二十日鼠と人間」「フォレスト・ガンプ一期一会」「アポロ13」「ミッション・トゥ・マーズ」「スネーク・アイズ」「グリーン・マイル」)
マヤ/マデリーン・ストーン
ハサウェイ/ヴィンセント・ドノフリオ(「ザ・セル」「マルコムX」「メン・イン・ブラック」)
*「 」内はその人の作品のうち見たことのあるものの題名

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2004/12/12

『ガタカ』"Gattaca"

-=-=-[あらすじと感想] ネタバレなし-=-=-


 「普通の妊娠」は、両親の遺伝子から最良のものを選び、組み合わされようになるという未来の話。主人公ヴィンセントは、両親の愛の行為から生まれたため、その遺伝子は「普通の妊娠」から生まれた弟とは決定的に異なっている。ひ弱な外見。劣性の象徴である眼鏡。

 生まれた時の血液検査で、未来が決定され、その遺伝子情報は、就職、結婚、人物判定すべてについてまわり、決定的なものとして扱われる。人種差別がなくなったかわりに、"劣性の遺伝子"を持つ新たな下層階級が形成される。ヴィンセントがいくら宇宙飛行士を夢みても、その未来は、生まれた時から決定されているのだ。

 そんなあるとき、思いがけないことが起こり....。ヴィンセントは困った立場に追い込まれていく。

 この映画を見終わった時、虚無感だけが残った。ところが、しばらくして思い返すと、何か懐かしいような、良い気分がわいてくる。生まれた時に決められた運命にいやおうなく流されていく中で、人々の意志が、強い闘争的な形ではなく、静かに流れるような穏やかな意志として示される。この「静かな意志」が、あとになってわきおこってくる共鳴につながるのだろう。

 希望を持つことの貴さがテーマとなり、兄弟愛や父の愛がサブテーマのようになっているのだが、私は、主人公でもない、挫折してしまったエリートである、ユージーンのことが気になってしかたがなかった。この映画で初めて知ったジュード・ロウという役者が光りすぎていたからかもしれないが。
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1997年
監督:アンドリュー・ニコル(「シモーヌ」「トゥルーマン・ショウ(脚本)」)
ヴィンセント/イーサン・ホーク(「ヒマラヤ杉に降る雪」「トレーニング・デイ」)
ユージーン/ジュード・ロウ(「クローサー」)
レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語」「コールドマウンテン」「AI」「スターリングラード」「リプリー」「クロコダイルの涙」「ロード・トゥ・パーティション」「オスカー・ワイルド」)
アイリーン/ユマ・サーマン「プロデューサーズ
*「 」内は、その人の作品で見たことのあるものの題名。

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2004/12/06

『フィフス・エレメント』"Fifth Element"

-=-=-[みどころ] ネタバレなし-=-=-

 みどころ満載のSFだが、一番輝いているのが、ミラ・ジョヴォヴィッチ演じるリールー。宇宙人が残していった細胞からDNAを抽出して作られた女性。高い知能、強さ、赤子のような感受性と野生味を備えた真っ赤な短髪を持つ。強いけれどフラジャイル(fragile=脆い)。

 船での戦闘場面は、マシンガンでどんどん人が殺されて行く。こういう場面、普通は好きではないのだが、この映画のここに限っては、不思議な魅力を感じる。「暴力的な戦闘場面」と「異次元空間のような不思議な歌を歌う歌手」とが交互に映され、その2つが織りなすものが、リールーの「強さ」と「脆さ」の表裏一体となった魅力と重なるからだろう。この表現力は秀逸だ。

 このあたりが題名の意味につながっていくのだが、ネタバレになるのでこのへんで…。

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1997年
監督:リュック・ベッソン(「レオン」)
コーベン/ブルース・ウィリス(「シックス・センス」「隣のヒットマン」「アンブレイカブル」「ベイビー・トーク」)
コーネリウス神父/イアン・ホルム
リールー/ミラ・ジョヴォヴィッチ
ゾーグ/ゲイリー・オールドマン(「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」「レオン」)
ルビー/クリス・タッカー(「ラッシュアワー」)
*「 」内は、その人の作品で見たことのあるものの題名。


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