2007/04/16

『アラバマ物語』"To Kill a Mockingbird"

☆登場する少年の1人があのカポーティということで見てみた。

アメリカ南部の村。人種差別が残る時代。その中での「正義」について描いた作品。

子どもの頃、何かわからない恐ろしいものがあった時代を思い出す。よくわからないままに温かいものに包まれていた時代でもあった。怖いものも、温かいものも、大人は子どもには説明してくれない。世の中から隔離されていた時代でもある。そういう子どもの目を通して、村の中にある世界の構図を描き出している。

モッキング・バードを殺してはいけないという原題の心がよくわかる。

主題というほど強く描かれているわけではないが、アメリカの映画には当たり前のように登場する陪審員制度と2年後に始まる日本の裁判員制度についても考えてしまった。過ちを繰り返しながら、正義について身近なものとして、考えてきた国の重みを感じる。

1962年/監督:ロバート・マリガン/グレゴリー・ペック「ローマの休日」「オーメン」/ロバート・デュバル「ジョンQ」「地獄の黙示録」「スリング・ブレイド」

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2007/03/22

『それでもボクはやっていない』

☆家族がいつ巻き込まれてもおかしくない冤罪の恐さと、一般市民としての無力さを感じた

ちょうど、岩波新書『裁判官はなぜ誤るのか(秋山賢三著)』を読み終わったところだったので、その知識がそのまま映画となって印象を深めたような形になった。

普通、自分が民事訴訟に巻き込まれることがあると想像することはあっても、刑事事件の被告になると想像することはない。しかし、痴漢だけは違う。夫や息子が突然、被疑者にされてしまってもおかしくない状況があるのだ。

主人公はフリーターで、現在は恋人もいない。この事件によって失ったものは比較的少ない環境だ。そのように、周囲の雑音を排して描き出すことによって、自分の身に降りかかってきていることの信じられない展開に対して、ただ「やっていない」という真実を言い続けるしかない主人公にだけ、観客の目が行くようになる。そして、そのシンプルさゆえに、冤罪を受けた者の無力さ、孤立感、そして人間の尊厳がいわれなく奪われることへの怒りをストレートに感じた。

143分という、長めの作品だったが、社会的背景や裁判の構造、それに、裁判官、検事、国選弁護人それぞれの意識、そして近く導入される裁判員制度のことなどを考えながら見ていると、ずっと頭がフル回転になって、あっという間に終わってしまった。

2007年/周防正行「Shall we ダンス?」/加瀬亮「硫黄島からの手紙」/役所広司「THE有頂天ホテル」「SAYURI」「笑の大学」「Shall we ダンス」/瀬戸朝香/山本耕史/もたいまさこ「ALL WAYS 三丁目の夕日

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2006/12/20

『真実の行方』"Primal Fear"

★エドワード・ノートンの、狂気と神経質さが入り交じった演技がすばらしい。

以下、ネタバレしますので、未見の方は読まないほうが良いかもしれません。

* * * * *

10年前であっても、このネタはすでに本も出版され、話題となっていた。

ビリー・ミリガンから始まり、こういう事実を心理学の面から扱った話も複数、知っているので、この筋自体はあまり衝撃ではなかった。普通は、監督の意のままに操られ、いつもどんでん返しにあっと言わされる素直な観客なのだが、今回は、その嘘も見抜けてしまった。むしろ、「この第3の人格が話していることも真実で、前の人格を統合するとすればこの人格が鍵になるのではないか」などという展開もありだと思えてしまったので、見終わってからも不満が残った。それに、他の伏線も、「あれはどうなったの?」という感じで、放り出されたまま。

しかし、悪徳弁護士のように見えるマーティンが酔っぱらって語った、性善説を信じているから被告人を救いたいというところに本音があると考えると、彼のほうの苦悩のストーリーは興味深い。

大司教がああいう人物であったのが真実なら、やはり、アーロンは被害者だ。このあたりや、元恋人であるジャネットとの絡みにも何かがあるはずだ。じっくり考えたい内容があったのに、エドワード・ノートンの演技に度肝を抜かれ、目を奪われてしまって、頭が働かなかったのが残念だったというのは、皮肉なことだ。

1996年/監督:グレゴリー・ホプリット/リチャード・ギア「シカゴ」「オータム・イン・ニューヨーク」/ローラ・リニー「愛についてのキンゼイ・レポート」「ライフ・オブ・デイビッド・ゲイル」「ラブ・アクチュアリー」「トゥルーマン・ショー」/エドワード・ノートン

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2006/02/22

『ニューオリンズ・トライアル』"Runaway Jury"


弁護士さえ操る「陪審員コンサルタント」などという職業。本当にあるのだろうか。嫌みなくらい実力のある切れ者(ジーン・ハックマン)。目的のためには手段も選ばない。今回の目的は銃メーカーの利益を守ること。一方は正義派の弁護士(ダスティン・ホフマン)。安物のスーツ、志は高そうだが、今ひとつ心配。大丈夫なのか。

…などと思っているうちに謎のカップル(ジョン・キューザック&レイチェル・ワイズ)が登場。凄腕の2人を牛耳る。正体も目的もわからない2人だが、自信満々だった陪審員コンサルタントをオタオタさせる様子は爽快だ。

何人もいる陪審員候補から、双方の弁護士が「先入観を持っている」「偏った思想の持ち主」「人格的に問題がある」などといった"正当な"理由を付けて問題となる人をはねて、実際に陪審員となる人を選んでいく。こんな制度があることを知らなかったので、びっくりした。

ネタバレ気味反転→陪審員1人の力で全体の決定がどちらにも導けるのかという不安を持ったが、この映画はその不安を解消する方向で答えを出している。正義派も正攻法だけでは悪に太刀打ちできない時代なのだろう。

2003年/監督:ゲイリー・フレダー/原作:ジョン・グリシャム/ジョン・キューザック「スタンド・バイ・ミー」/ジーン・ハックマン/ダスティン・ホフマン「ネバーランド」「レモニー・スニケットの…」「ワグ・ザ・ドッグ…」「レインマン」「クレイマー、クレイマー」「卒業」/レイチェル・ワイズ「ナイロビの蜂」「コンスタンティン」「スターリングラード」「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」「チューブ・テイルズ」「輝きの海

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2005/10/02

『ア・フュー・グッドメン』"A Few Good Men"



キューバの米軍基地での殺人事件をめぐる法廷モノ。それぞれの立場の人が信じる「正義」について考えさせられる。

非常時の海軍という特殊な空間の中でできあがる特殊な規律、そしてそれを正しいと信じている人達。しかし、別の基準で見ると違った「正義」が現れてくる。

ハラハラする真実が次から次へと暴かれていくという法廷劇ではないが、それぞれの立場の人がよりどころとしている基準と、「正義」に目覚めることにより、変化していく様子が、弁護人側にも、被告の側にも見られて、そこが一番の見所となっていた。

唯一、絶対にその基準をブレることなく持ち続ける男を演じたジャック・ニコルソンの演技はすばらしかった。トム・クルーズもはまり役。

1992年 監督:ロブ・ライナー(「ハリウッド・ミューズ」「スタンド・バイ・ミー」「ミザリー」)/トム・クルーズ(「コラテラル」「ラスト・サムライ」「マイノリティ・リポート」「アザーズ」「バニラ・スカイ」「アイズ・ワイド・シャット」「マグノリア」「ミッション・インポッシブル」「レインマン」)/ジャック・ニコルソン(「アバウト・シュミット」「恋愛小説家」「シャイニング」「イーストウィックの魔女たち」「カッコーの巣の上で」「イージー・ライダーー」)/デミ・ムーア(「GIジェーン」)/ケヴィン・ベーコン/キーファー・サザーランド

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