2005/05/30

『コラテラル』"Collateral"


 ロサンジェルスの日没から夜明けまでの時間が、きれいな映像と魅力的な音楽によって表され、映画全体を覆う。そして、大きすぎる人造物である大都会が、小さな人間の夢もその生い立ちも飲み込み、人々を疲弊させていく。大都会という舞台装置が、映像と音楽が映画全体を包み込む。

 ストーリーはサスペンスとアクションに満ちている。筋の運びと、妙に交錯する場面の切り替わりにハラハラさせられる。ストーリーも音楽も緩急に満ちている。「急」の部分に挟まれる「緩」の部分である殺し屋ヴィンセントとタクシー・ドライバー、マックスの会話ひとつひとつが味わい深い。同じテーマの会話が別の人物とでは少しだけ違う形で繰り返されたり、同じ人物が違う状況で、少し違った文脈で再び語られたりする。

 夢も能力もあるのに動き出せないマックス。最初から夢を持つ環境に育たなかったヴィンセント。2人はどこかで響き合い、わずかなミクロのひずみ程度のささやかさでわかりあい始める。だからマックスはあんなすごい役目も果たすことができてしまうのだろう。それと同時に、殺人マシンのようなヴィンセントにも、どこかヒビが入り始めるのだ。

 都会の道路を横切るコヨーテの目が光る。実に象徴的だ。

2004年/監督:マイケル・マン「ショーシャンクの空」"The Shawshank Redemption"マジェスティック」「グリーンマイル」「プライベート・ライアン」
/ヴィンセント:トム・クルーズ「ラスト・サムライ」「マイノリティ・リポート」「バニラ・スカイ」「アイズ・ワイド・シャット」「マグノリア」「レインマン」/マックス:ジェイミー・フォックス/アニー:ジェイダ・ピンケット=スミス「マトリックス・リローデッド」「マトリックス・リボリューション」

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2004/12/15

『ウィンター・ゲスト』"The Winter Guest"

-=-=-[あらすじと感想] ネタバレなし-=-=-

 スコットランドの海辺を舞台にした、しっとり心に染み入る映画。

 海が凍ったある寒い冬の朝、老女が雪の中を黙々と歩いて、夫を亡くした娘を訪ねてくる。意志の強さがそのまま顔に出ている娘フランシスも、最愛の夫を亡くした辛さから、自分の支えとしていたカメラに手を触れることさえできないほど苦しんでいた。

 フランシスの息子アレックスは母を気に掛けつつ、学校へと向かうが、凍った海に続く雪の海岸で、一風変わった娘ニタと出会い、新たな心の触れ合いを見つける。同じ海辺のバス停でバスを待つ老女2人は、葬式に出ることを生き甲斐としているような毎日。海が凍ったその日、学校をさぼる少年2人のまだ幼さの残る「青春」。

 それぞれの登場人物が、違ったストーリーをもちながら、哀愁帯びたかもめの鳴く、寒いスコットランドの海辺の風景に包まれ、ひとつの交響詩のように調和する。たった1日の間に起きたできごとを描いているにすぎないのに、ひとつの力となって「生きること」を謳いあげる。

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1997年
監督:アラン・リックマン(「ハリー・ポッターと賢者の石(出演)」)
フランシス/エマ・トンプソン(「日の名残り」「ラブ・アクチュアリー」)
エルスペス/フィリダ・ロー
アレックス/ゲーリー・ハリウッド
ニタ/アーリーン・コックバーン
*「 」の中は、その人の作品で見たことのあるものの題名

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2004/12/07

『ロスト・イン・トランスレーション』"Lost in Translation"


 家族との間に微妙な温度差を感じている落ち目の俳優ボブ・ハリスと新婚でありながら孤独感を持っているシャーロット。そんな2人が東京で出会う。

 初めて訪れた国で、空港から一歩外に出る時ほど緊張するものはない。ホテルの中はまだ異国人をあいまいに包んでくれるが、言葉の通じない外を歩くと、異質なものに包まれた「自分」を強く意識せざるをえなくなる。外側の刺激の強さとは裏腹に、自分の意識は、それを受け取る自分の内面にどんどん向けられて行く。

 ボブとシャーロットの不安感と欠落感、それが2人を引きつけ合い、自分の心を見つめ直す。そのための舞台として、この異国感覚は重要な要素となっている。

 彼らの目を通して見る、見慣れた日本の風景はいつもと全く違って感じられ、異国に一歩踏み出した時の自分の感覚がよみがえってきた。

2003年/監督:ソフィア・コッポラ「ヴァージン・スーサイズ」 制作総指揮:フランシス・F・コッポラ「奇跡の詩」/ボブ・ハリス/ビル・マーレイ/シャーロット/スカーレット・ヨハンソン「真珠の耳飾りの少女」「アイランド」「理由

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