2007/02/22

『ナイロビの蜂』"The Constant Gardener"

☆アフリカの大地、サスペンス、社会問題、ロマンス、すべてが調和して語りかけてくる。

最近、サスペンスに見せかけておいて、謎解きは中途半端なまま、「実はこっちがテーマだったんですよ」というオチになる映画を多く観て、不完全燃焼のし続けだった。これは違う。製薬会社のケニアでの黒い裏話を扱ったサスペンス的要素はきっちりと構成した上で、ロマンスも壮大に締めくくっている。そして最後に、人権問題について考えさせられることになる。

妻テッサ(レイチェル・ワイズ)はアフリカの大地に消息を絶つ。それからの夫ジャスティン(レイフ・ファインズ)の行動はすごい。それまではガーデニングを愛する出自の良い典型的な英国紳士でしかなかったのに、奔放で革命家気質で情熱家だったテッサのやり残したことを理解し、成し遂げるために、軌跡を追っていく。ヤワな上流階級の人間がここまで変われるとは。

2人は正反対であるがゆえに惹かれあい、結婚する。しかし、正反対であることは2人の生活に亀裂を生み出し、結局、それぞれの信念に干渉せず、尊重し合うという形で折り合いを付けて生きてきていた。これまでは。

理解するということはこういうことなのかと思う。レイフ・ファインズは内に秘めた静かな情熱を演じる時、美しく輝く俳優だ。レイチェル・ワイズも美しさもこの背景に合う。そして、その背景を撮っているのが「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレスなのだからぴったりはまる。

ひとつだけわからないところがあった。あのピストルだ。→(ネタバレ反転)あれは、護身用ではなく、彼の死を自殺だと偽装するために、最初から仕組まれて手渡されたものだったと理解したのだが、それで正しいのだろうか。そうすると、情報局の彼は自分の癌の話などを持ち出して心を開いたかのように見えたが、実はすべての黒幕だったことになる。そして、ジャスティンはその罠から逃れられないことを知った上で罠に身を投じ、残された最後の手段で真実をイギリスに送って、妻のやりのこしたことを成し遂げたことになる。…という解釈したのだが。

2005年/監督:フェルナンド・メイレレス「シティ・オブ・ゴッド」/レイフ・ファインズ「オスカーとルシンダ」「イングリッシュ・ペイシェント」「シンドラーのリスト」/レイチェル・ワイズ「コンスタンティン」「ニューオリンズ・トライアル」「スターリングラード」「ハムナプトラ」「輝きの海

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2006/05/28

『CUBE ZERO』


ハイテクかと思ったら、妙にローテクなところのある世界。そして、そのアンバランスであることにあまり意味が見出せない。蘇った兵士の弱点もあれではねぇ(苦笑)。「2」と違って、最初の『CUBE』の雰囲気は残している。確かに「ゼロ」というだけあって、「1」に続くものではあった。

しかし、解き明かしたところで何の意外性も見出せないところは説明しているのに、本当に知りたかったところはわからないまま。不満が残るどころか、そういう「CUBE」じゃなかったら良かったのにと思ってしまう。外側の世界も「やっぱりそうなのか」とは思ったものの、それを見せられてしまうと、急に「CUBE」の不条理な世界の広がりが断ち切られ、理解可能な狭い世界に押し込められてしまったようでがっかりする。

では、どういう世界だったら納得できたのかと考えてみたが、どういう世界であっても説明の付くものではやはり納得できない。むしろ、外に出た途端に、さらに光に満ちた不条理な世界が広がっていて、「これはなんなんだ!」となっていたら納得できたのではないかと思う。

*『CUBE』、『CUBE』と『CUBE2』の記事もあります。

2004年/監督:アーニー・バーバラッシュ

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2006/05/06

『シャイニング』"The Shining"


怖い。しかし、その怖さは化け物に襲われるとか、殴られるとかいったものではなくて、何か正体不明の怖いものが漂っているという怖さであり、音楽、インテリア、色彩、構図、おもちゃの車が走る音、といったものが醸し出す心理的な怖さだ。私が一番恐怖を感じたのは、改行され様々に段落分けされているあの原稿用紙だった。狂気の描き出し方にこんな方法があったとは。

今まで見てきた映画で「怖い」と思った数々の場面と重なる部分が多い。冒頭は『シークレット・ウィンドウ』と似ている。しかし、『シャイニング』のほうが、わけのわからない何かに引き寄せられるように車が走り、どこかに呼び込まれていくという雰囲気があり、さらに怖さを倍増させる。青と赤のインテリアと服装とをシンクロさせた色遣いは『クルーエル・インテンションズ』でもうまく用いられていたが、『シャイニング』ですでに使われていたのだ。

他の映画のネタバレは避けたいので書かないが、あれもこれもこの映画から…という気がしてならない。それほど斬新なものをこの映画は持っている。すばらしい映像と音楽の組み合わせだと思った。

ところが、一緒にこの映画を見た家族はすでに原作を読んでいて、違う!と言っていた。ホテル自体の持つ怖さ、それにスティーブン・キング特有の温かさ、大事なこの2つの要素がこの映画では薄まってしまっているというのだ。映画としての作りが良くても、原作を読んだ人には満足できないものなのだろうか。この映画に満足できずにキングが自分で作ったというTVシリーズのほうを見てみたいと思った。

*その後、スティーブン・キング版も見て感想を書きました。こちら→キング版『シャイニング』

1980年/監督:スタンリー・キューブリック「アイズ・ワイド・シャット」「バリー・リンドン」「2001年宇宙の旅」/原作:スティーヴン・キング「シークレット・ウィンドウ」「アトランティスのこころ」「グリーンマイル」「スティーヴン・キングのシャイニング」「ショーシャンクの空に」「イット」「やつらはとこどき帰ってくる」「スタンド・バイ・ミー」「キャリー」「ミザリー」/ジャック・ニコルソン「アバウト・シュミット」「恋愛小説家」「ア・フュー・グッドメン」「イーストウィックの魔女たち」「カッコーの巣の上で」/シェリー・デュヴァル/ダニー・ロイド

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2006/05/03

『薔薇の名前』"The Name of the Rose"


中世の修道院での連続殺人事件をウィリアム修道士(ショーン・コネリー)が解いていくというストーリー。そのサスペンスとしてのおもしろさも最上級だが、さらに中世の修道院のおどろおどろしい雰囲気や、宗教界の対立の構造や異端の問題などの濃い味付けが加わる。

その上、知性とその象徴である「書物」の持つ力というテーマが底に流れている。本の力は強い。宗教心を奪うこともあれば、真実を正しく見る助けともなるのだ。見応えのある映画だったが、このあたりをもっと深く知りたくなったので、原作もぜひ読んでみたいと思った。

修道院の遺跡を見てまわったことがあるが、その時の説明で想像していた様子が、実際に大勢の人が修道士となって演じている映像を見ることができて非常に興味深かった。塔の部分についても、実際にはどういう階段があったのだろうかと思っていたのだが、納得した。

先日、話題の『ダヴィンチ・コード』を本で読んだ。サスペンスに宗教的おどろおどろしい味付けという点でこの映画と似ているが、もしかするとこちらのほうが深みがあっておもしろいかもしれないと思ってしまった。

1986年/監督:ジャン・ジャック・アノー/ショーン・コネリー「リーグ・オブ・レジェンド」「小説家を見つけたら」「エントラップメント」「マイ・ハート・マイ・ラブ」「ザ・ロック」「理由」「グッド・マン・イン・アフリカ」「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」/F・マーリー・エイブラハム「小説家を見つけたら」/クリスチャン・スレーター「告発」

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2006/04/15

『第三の男』"The Third Man"


何気ないように見えて、実はすばらしく凝った見せ方が随所に見られ、やっぱり長く残る名作は違うと再認識した。

第二次世界大戦後、ナチス破壊の傷が残るウィーン。暗いウィーンを戦勝国の4か国が分割統治する。室内装飾にはハプスブルグ家の栄光を思わせる豪華さが残る。しかし、その豪華さは映画の雰囲気には逆の効果をもたらし、暗さがさらに強調される。抑圧された人々の気持ちが映画全体から漂ってくる。

殺人のあった家の前に集まる人々。群衆の中で、殺された人の幼い子供が「この人(ホリー・マーチン)が殺した」と繰り返し叫び、まわりの人々にドイツ語のさざめきが広がる。こわばった視線が、ドイツ語を理解できないアメリカ人ホリー・マーチンに集まる。ゆっくりとした視線の動きや人々の動き、理解できないことばが、観る者にじっくりと考える余裕と高まる緊張を感じる時間を与える。

曲がり角から登場する大きな人影、足下しか照らさない光、突然開く窓、スポットライトのような灯りの効果に突然浮かぶ顔。オーソン・ウェルズは、昔見た時は、こんな顔の人がどうしてと思ったが、今はあの魅力がわかる。最初に登場する時の表情はすばらしい。

今のハリウッド映画が売りにする、スピード感とリアルな映像の逆をいく映像。病院のベッドも悲惨な場面は映さないが、子供用のベッドの間を静かに動く看護師の姿とくまのぬいぐるみがすべてを雄弁に語る。

有名なあのチターの曲が、ストーリーに合わせて、特には不安をかきたて、時には緊迫感をもたらし、同じメロディーなのに弾き方を変え、場面によって異なる思いを乗せて、ずっと流れる。何度も見て味わいたい映画だと思った。

監督:キャロル・リード「フォロー・ミー」/原作:グレアム・グリーン/ジョセフ・コットン/オーソン・ウェルズ/アリダ・ヴァリ

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2006/03/20

『SAW2』


やっぱり見なければよかった。痛そうなシーンが多かった。注射針のシーンなんて、もう痛くて痛くて。前作が、緻密なストーリーに対照的な2人の描かれ方とその心を通わしていく様が素晴らしかったので続編をつい見てしまったのが間違いだった。もともと血がドバーッは苦手だから、いけないのだけれど…。

人数が多すぎて、1人1人の性格がほとんど描かれていなかったのが私の好みではない。8人とも、ただ逃げようと思っているだけで、生を軽く見てきたそれぞれの人生を振り返っているようには描かれていなかったし、考えて謎を解いて、鍵を探そうとしているようにも見えなかった。

おまけに、映画のトリックにだまされやすい私なのに、鍵の開け方も、オチもかなり予想が付いていた。オチがわかったからといって映画の出来が悪かったということにはならないけれど、やっぱりちょっとお手軽な作りだったってことじゃないかな。

ネタバレここから→鍵の番号の謎は、問題を出された時にわかったし、ビデオについては、「今はきっと部屋の隅に座っているだろう」と言った時にもしかしてと思った。刑事は何度も言われているんだから、そこにずっと座っていられなかった時点で負けだと思った。ビデオだとしたら、みんな死んで決着がついているのだろうけれど、そうなると息子はまだどちらかわからない状態でどこかにいるのかなというところまで想像していた。もしかすると、この建物の地下室にいたりしてなどと思いながら…。

↑もしかして、結構楽しんでいたことになるのかな。

[後記]あとで考えたら、全体の鍵だけでなく、1人1人に残された「死なずにすむ方法」を考えさせるところに本当の謎解きがあったのかもしれないと思った。ビデオを見て子細に検討すると鍵があるのかもしれない。でも、こういうこういう映像が苦手な私には、それはできない。やっぱり私向きの映画ではないなあと思った。

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2006/02/26

『マシニスト』"The Machinist"


嫌な映画だった。工場裏の駐車場の不気味な風景、機械の動きは今にも人を飲み込みそう。全体を覆う、モノトーンをさらに不健康にしたような色遣い。遊園地のお化け屋敷に至っては、実際にそこにいる以上に恐く、その世界に飲み込まれてしまいそう。

映画を観ている間中、神経がどうかなりそうな主人公の見ている風景を強制的に見せられ続けるという抑圧的な感覚にさいなまれる。ストーリーは、映像の鬱々とした度合いの高さほどには斬新ではないのだが…。

2003年/監督:ブラッド・アンダーソン/クリスチャン・ベイル/ジェニファー・ジェイソン・リー/アイタナ・サンチェス=ギヨン

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2006/02/13

『セルラー』"Cellular"


フォーン・ブース』に続く電話モノ。誘拐された女性からのSOSの電話を受けてしまったヘナヘナした雰囲気の大学生ライアン。正義に目覚めて活躍するかと思いきや、やっぱり間抜け。なんでそこで警察に頼まない。なんで、そこで誰かを引き込まない…と、やきもきし続け。

中盤は、それはいくらなんでもボケ過ぎじゃない?これはコメディだったの?と脚本までケナし始めていたのだが、空港での銃の件から、ん?となり、実はそれらの間抜けさが、結局は功を奏して…となっていき、いつのまにやらつじつまが合い、しっかり終わる。いや、へなちょこ青年、活躍してる。

終わってみたら、結構、高得点、おもしろかったじゃない。

2004年/監督:デヴィッド・R・エリス/原案:ラリー・コーエン「フォーン・ブース」/キム・ベイシンガー/クリス・エバンス/ジェイソン・スティサム/ウィリアム・H・メイシー「マグノリア」「ウワサの真相 ワグ・ザ・ドッグ」/ノア・エメリッヒ「トゥルーマン・ショー
*「 」内は見たことのある作品。

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2006/01/31

『シークレット・ウィンドウ』"Secret Window"


気弱で、頼りなげな、ミステリー作家のモート。それをあのジョニー・デップが演じるものだから、もう思いっきり感情移入して見てしまった。作家ってこういう苦しみがあるんだろうなあ。想像力が要求され、次々と新しいものを生み出すのも大変。そして、盗作だなんて言い出すストーカーにつきまとわれることだってあるのだろう。もしかすると、スティーブン・キングもこういう目に遭ったことがあるのかなという具合に。

[ネタバレ、反転させて読んでください] ここから→こんなふうに感情移入し、最後の最後まで、いや、そんなはずはないという気持ちだったので、山荘にヒビが入るところなど、まさに、自分の観念が崩れていく様を映像化したもののように感じた。

多重人格モノであることがわかった時、「それはないだろう。反則技だ」と思ってしまうような駄作がある。一方、この作品のように、多重人格であることがわかった途端に、過去のシーンが次から次と浮かんできて、絡んだ糸がすっと解けていくような気がするものがある。「シューターが煙草を吸うから、モートも吸いたくなってしまうんだ」「シューターが暴力的な部分を引き受けていた分、モートには臆病さが強くでていたんだ」と…。その臆病さと妙なくらいの善良さをおかしいと感じさせる、一歩手前のところで、ジョニー・デップが演技していた。そして、さらに複雑な最後の第3の人格までも…。←ここまで

冒頭、緊迫感のあるモーテルの場面から、一転して、緊張が解き放たれるように、きれいな湖のほとりの山荘にそして山荘の内部へと映像が移って行く。このままこのカメラの目に身を任せて、画面に吸い込まれていくことができる人は、十二分にこの作品を楽しむことができる。

2004年/監督:デヴィッド・コープ「パニック・ルーム(脚本)」「スネーク・アイズ(脚本)」「ミッション・インポッシブル(脚本)」/原作:スティーヴン・キング「アトランティスのこころ」「グリーンマイル」「スティーヴン・キングのシャイニング」「ショーシャンクの空に」「イット」「やつらはとこどき帰ってくる」「スタンド・バイ・ミー」「シャイニング」「キャリー」「ミザリー」/ジョニー・デップ「ネバーランド」「シザー・ハンズ」「ギルバート・グレイプ」「スリーピー・ホロウ」「ショコラ」「パイレーツ・オブ・カリビアン」/ジョン・タトゥーロ/チャールズ・S・ダットン「ゴシカ」「クッキー・フォーチュン
*「 」内は見たことのある作品名

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2005/11/27

『バタフライ・エフェクト』"The Butterfly Effect"


大がかりなタイムマシーンのような仕掛けより、こういう心理的な形のほうが過去に戻ることができそうな気がしてくる。過去を変えたら未来も変えられるという理屈はどこか胡散臭いものがある。しかし、思うように行かない結果が繰り返しもたらされることによって、観客の抱くあやしさへの疑念は消えていく。うまくできている。

エヴァンは初恋の感情だけで動いているのではないと思う。何度も過去へ戻り、失敗し、違った境遇に陥る度に、ケリーへの思いが深まっていったのではないだろうか。素敵な女性に成長した時はもちろんのこと、落ちぶれてしまった彼女の姿を見ても、やはり思いが深まる。何回分かのうまくいかなかった人生の記憶も含めて、彼女を愛してしまったのだろう。

そう考えていくと、あの結末は、さらにすばらしく感じられる。

この映画、いろいろなジャンルに当てはまりそうだが、私は、ラブストーリーとして好きになってしまった。

2003年/監督:エリック・ブレス&マッキー・J・グラバー/アシュトン・カッチャー/エイミー・スマート/ウィリアム・リー・スコット/エルデン・ヘンソン/メローラ・ウォルターズ「マグノリア」/エリック・ストルツ

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