2010/08/25

『潜水服は蝶の夢を見る』"Le Scaphandre et le Papillon/The Diving"

☆人間の内側からに存在するものの豊かさが描かれている

ALS(筋萎縮性側索硬化症)のトータル・ロックトインと違って、彼の場合は脳梗塞で倒れてこの状態になった。徐々にではなく、突然、瞼しか動かず、身体を動かせず、呼吸器なしでは呼吸できない状態に閉じ込められた。

しかし、この映画は彼の悲劇をテーマとしていない。閉じ込められた精神、想像力、脳の働きの、なんと素晴らしく、活動的で美しいこと。それが描かれている。

彼には、閉じ込められてもなおいきいきと活動する内面の力があった。彼はそれを表す言葉を職業としていた。そして、この映画監督には、それを映像として表現する力があった。それらの条件に恵まれたおかげで、この作品は死を描くのではなく、生き生きとした生を描くことができた。

氷河のシーンの説得力はすばらしい。

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2010/02/07

『マンデラの名もなき看守』

☆囚われの環境が静かに変化していくことに、全世界からの働きかけを感じる。

同じアパルトヘイトを扱った映画、『遠い夜明け』などと比較して見てしまう。すると、この映画ではアパルトヘイト政策下で、運動の指導者達がどんなにひどい目に遭い、ひどい扱いを受けてきたかということはほとんど描かれていない。描写が手ぬるいのではないかと感じられるほどだ。また、ネルソン・マンデラと看守の交流と言いながらも、看守がどういう交流を経て、どのように考え方が変わっていったかといった部分の描かれ方も物足りないと、最初は思ってしまう。

しかし、この映画はそういう直接的な告発を主題としていないのだ。刑務所の中でのマンデラ氏に対する待遇が少しずつ変わっていく様子を通して、社会と世界の動きがゆっくりとそこにも到達してくることを感じる。正しいことがゆっくり実現されていく様子が描かれている。実際は27年掛けての変化なのだから、気が遠くなるほどゆっくりした動きだ。

外の世界からの政治的な働きかけ、そして民間団体のさまざまな働きかけ、世界からの声がわずかずつではあるが、確実に影響を及ぼし、監獄の状況が変わっていく。外からは見えない場所であるはずの刑務所の中である。いくら世界がアパルトヘイトに反対し、声高に叫んでも、そう簡単には待遇を変えることはできない特殊な場所である。それがここまでと思うと、このぬるいと思える描き方の外側にある大きなうねりのような世界の動きが想像される。そう考えると、これはすごいことだと感じられてくる。

『遠い夜明け』や『イン・マイ・カントリー』なども併せて見ると、この映画の静かな主張がより印象的になる。

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2010/02/02

『アバター』

☆初めての3D体験から20年
20年程前、よかトピアというマイナーな場所での博覧会で初めて3D映像を見た。「注文の多い料理店」。これがおもしろくて何度も足を運んだ。とはいえ、この3Dのおもしろさだけではない"映画"として機能するのはいつのことだろうと思っていた。今回、アバターを見て、映画館で見る映画は変わるんだろうなあと思った。今日は私にとって記念すべき3D記念日となった。

一番おもしろかったのは、3Dのおかげか、アバターという設定のおかげかわからないが、運動能力が著しく長けた人として自然の中で動き回れることのすばらしさを"実感"しているかのように楽しく感じられたこと。これは一歩間違えるとアブナイ世界かもしれないと思わせるものがあった。

ストーリーとその主張は好きだった。意外性はなかったがそれはそれで良い。宮崎駿の世界の集大成。ラピュタやナウシカに似た発想の映像で、自然に対する目というテーマも似ていた。でも、その主張と世界観が好きだから楽しめた。

残念なのは、奥行きがある分、画像が遠く、小さく感じること。きれいで、立体的にリアルに見えるのだけれど、むこうにある水槽の中を覗いているかのようで、2Dの時のほうがすぐ目の前にあるかのような大きさの迫力は感じられる。きっと普段の2Dと同じ迫力を感じるにはさらに大きな画面が必要なのだろうと思う。でも、そういう映画館ができるのももうすぐなのだろう。今回はDolby3Dで見たが、もう一度、IMAX3Dデジタルで見たいと思っている。

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2009/05/11

『明日、君がいない』”2:37”

☆閉塞感につぶされそうだったあの時代

中学、高校時代を思い返す時、もう一度あの頃に戻りたいとは思わない。特別不幸な青春時代を過ごしたわけではないが、あんな不安定な時期の学校生活をまた経験したいとはとても思えない。

この映画にはその根本のところがとてもよく描き出されている。順番にインタビューを受けている画面が挿入される6人の生徒達はそれぞれに問題を抱えている。学校という狭い空間の中で、それぞれの苦痛を内に秘めた姿がごく平凡な学校風景の中に映し出されていく。ある時のある人物の視点で映し出された風景が、もう一度、別の人物の視点で映される。すると、前の場面で主人公だった人が別の風景の隅に映り、前の場面と同じ光景が別の角度から見える。互いに少しだけ関わっている、が、全く関わっていないとも言える同じ学校に通う生徒達。

インタビュー、それぞれの視点での風景、それらを通して、冒頭で自殺を図ったらしい人物はいったい誰なのか、謎解きのような気持ちで見ていく。しかし、次第にその答が見えてくる。濃く重い悲しみ、密なようで実際は希薄、むしろ、誰とも関わることができない人間関係の全体像が重層的姿を現してくる。そして、誰が死んでもおかしくない状況が見えてくる。

そうだ、これだ。こういう中で、自分の場所の不安定さから来る不安感、絶望感、閉塞感が、多感な心を無惨に傷つけてくることが実感として伝わってくる。

そして、それが誰だったかがわかった後も、真の共感を持つことのない残りの人物達のインタビューが続く。その言葉は、映画によって敏感になってしまった見る者の心を、容赦なく傷つけてくる。すばらしい表現力を持った作品だ。

2006年/監督:ムラーリ・K・タルリ

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2009/04/12

『アガサ・クリスティの奥様は名探偵』"Mon petit doigt m'a dit..."

「女はみんな生きている」を見て以来、すっかりカトリーヌ・フロの魅力に取り込まれてしまった。

この年齢で、可愛らしさと美しさを保った女性としての魅力を見せてくれる映画がうれしい。

2人が住む、岬の突端に建つお城のような家。骨董品が普通に家具として使われている家。高級なのだけれど、奇妙な雰囲気の漂う老人ホーム。そして、やっと見つけた絵に描かれた不思議な間取りの家。魔女が棲んでいるような村。

好奇心旺盛で可愛く年を重ねたカトリーヌ・フロと、家と村の魅力にサスペンスが味付けとなり、洒落た感じを堪能した。

2005年/監督:パスカル・トマ/カトリーヌ・フロ

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2009/04/10

『テルマ&ルイーズ』"Thelema & Luise

最初は私の大っ嫌いな展開だった。馬鹿な女友達テルマのせいで、ルイーズはどんどん窮地に陥っていく。世間知らずで、考えが浅く、自分の考えも持たない軽い女。そんな友達との旅行なんて…。

しかし、見ているうちに、そうだったんだ、アメリカは女性が本当にこんなふうに虐げられていたんだと思い出す。レディファーストととか言われながらも、社会でも家庭でも、女は馬鹿で美しければ良いと扱われ、飾り物でしかなかった歴史。

その歴史的呪縛から逃れて、輝きを増していく2人を見ていると、嫌いなタイプの展開なのに、だんだんと気分がスカッとしてくる。

ちょい役で出ているブラッド・ピット。人の良さそうで、素敵な感じの青年。はまり役だ。テルマが自信を持ち、自分の足で歩き出すきっかけとなる重要な役割を持つ。そしてハーヴェイ・カイテルの渋い良さ。

単純な展開と言えばそうなのだけれど、テルマの変化の中に、アメリカの女性が自分を知っていく歴史的背景がにじみ出てくるように描かれていて、この映画の訴えたいところが最後のシーンと共に心に残った。

1991年/監督:リドリー・スコット/スーザン・サランドン/ジーナ・デイビス/ハーヴェイ・カイテル/ブラッド・ピット

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2009/04/03

『ワルキューレ』"Valkyrie"

歴史的な話は結果がわかっている分、ハラハラする面が少なくなってしまう。しかし、ヒトラーとは違うドイツ人がいたことを世界に伝えたいというコンセプトはとても良いと思った。そして、暗殺を企てるだけでなく、綿密に、その後のことを考え、説得していく過程がとてもおもしろかった。むやみやたらに暗殺、転覆を謀るのではない、未来を考えた緻密さ。

手に汗握るという点では、少し物足りないが、意図はしっかり伝わってきた。

2009年/監督:ブライアン・シンガー/トム・クルーズ

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2009/03/12

ミッション・インポッシブル"Mission Impossible"

いろいろな場面がよく考えて作られていておもしろい。

特に、ボスとの会話で、あの時はこうでと説明していくのと同じ場面を、フラッシュバックで別の意味を持たせて見せるところは、よくできていて面白い。ヘリコプターの場面、映画館で見たら迫力あっただろうなあと思う。スパイの小道具も、なんだかドラえもんの道具みたいなクスッを笑ってしまうような遊びがある。忍び込むCIAの部屋もなんかお遊びみたいな作られ方がいいし、薬盛られたおじさん、気の毒なのに笑ってしまう。

緊張とゆるんだところが組み合わさったところが気に入ってしまった。

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「地上5センチの恋心」"Odette Toulemonde"

「女はみんな生きている」を見て以来、すっかりファンになってしまったカトリーヌ・フロ。

この映画も、彼女の、ちょっとおばさんなのに、可愛くて、地位や自分の置かれた境遇にこだわらない…けれども、思いやりの心も、一線の引き方も知っている、素敵な女性役の演じ方が大好きになりました。

頼りなげだけれど、細やかな美容師の息子と、大学を出ているのにぶっきらぼうな娘。おまけに両方の恋人がぶっとんでいる。それもこれも、3人ともどこか温かいところがあるから。

街角に突如としてチラッと登場するキリスト似の青年。彼とカトリーヌが地上に浮くところは、彼女の心を表しているのですね。いい雰囲気の心温まる映画でした。

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2008/09/04

『ボーン・アルティメイタム』"The Bourne Ultimatum"

☆冒頭からぐんぐんと引き込まれていく。

警備カメラに映らないようにして、一般人である新聞記者を守りながら、コンタクトを取っていくところが、頭脳も肉体も最高レベル。悪い人ではないようなのに、なぜ政府や警察に追われているのか、観客も主人公のボーンもわからない。この設定は一作目同様だが、前作を見ていなくても、問題なく楽しめる。

行ったことのある、モロッコのタンジールが舞台だったので、太陽にあふれ、カラッとしたあの土地を思い出した。世界中の電話に携帯、すべてを検索して、キーワードが使われたらすぐにフォーカスして、追跡できるなんて、非現実的だが、どこか可能な感じがして、数カ国にまたがる追跡が新鮮に感じられた。

2007年/監督:ポール・グリーングラス「ユナイテッド93」/マット・デイモン「シリアナ」「ディパーテッド」「ボーン・アウデンティティー」「オシャンズ11」「リプリー」「プライベート・ライアン」「グッド・ウィル・ハンティング」「青春の輝き」//ジュリア・スタイルズ「モナリザ・スマイル」

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