『マンデラの名もなき看守』
☆囚われの環境が静かに変化していくことに、全世界からの働きかけを感じる。
同じアパルトヘイトを扱った映画、『遠い夜明け』などと比較して見てしまう。すると、この映画ではアパルトヘイト政策下で、運動の指導者達がどんなにひどい目に遭い、ひどい扱いを受けてきたかということはほとんど描かれていない。描写が手ぬるいのではないかと感じられるほどだ。また、ネルソン・マンデラと看守の交流と言いながらも、看守がどういう交流を経て、どのように考え方が変わっていったかといった部分の描かれ方も物足りないと、最初は思ってしまう。
しかし、この映画はそういう直接的な告発を主題としていないのだ。刑務所の中でのマンデラ氏に対する待遇が少しずつ変わっていく様子を通して、社会と世界の動きがゆっくりとそこにも到達してくることを感じる。正しいことがゆっくり実現されていく様子が描かれている。実際は27年掛けての変化なのだから、気が遠くなるほどゆっくりした動きだ。
外の世界からの政治的な働きかけ、そして民間団体のさまざまな働きかけ、世界からの声がわずかずつではあるが、確実に影響を及ぼし、監獄の状況が変わっていく。外からは見えない場所であるはずの刑務所の中である。いくら世界がアパルトヘイトに反対し、声高に叫んでも、そう簡単には待遇を変えることはできない特殊な場所である。それがここまでと思うと、このぬるいと思える描き方の外側にある大きなうねりのような世界の動きが想像される。そう考えると、これはすごいことだと感じられてくる。
『遠い夜明け』や『イン・マイ・カントリー』なども併せて見ると、この映画の静かな主張がより印象的になる。
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