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2007/09/27

『砂の器』

☆原作の和賀英良はピアニストではない。

原作では音楽家であるが、音を出すマシンを使う、今までにない形の作曲家だ。これなら納得できる。ピアノは中学生くらいの年齢で学び始めたのだったとしても遅すぎるのだから。

映画の設定にはものすごく無理がある。それなのに、映画を包み込む正統派のピアノ協奏曲「宿命」には並はずれた説得力がある。ハンセン氏病や終戦の暗い時代、物語の背景すべてが重く包み込まれ、ピアノ協奏曲の「宿命」という題名に相応しい重厚な音に込められ、無理も一緒に包み込んで納得してしまう。

問答無用とばかりのピアノ演奏に圧倒され、理不尽なことも、重苦しい時代背景も、納得できない宿命も、声を上げられることすらなかった悲しみも、すべてが感動の波に包み込まれていってしまった。映画の最後にピアノ協奏曲の演奏を延々と流すなど、とんでもない映画の作りなのに、それがすばらしい。なんなのだこれはと思った。

ピアニストを題材にした映画、4つ目のレビューとなりました。「真夜中のピアニスト」「海の上のピアニスト」「戦場のピアニスト」と書いてきています。

1974年/監督:野村芳太郎/原作:松本清張/丹波哲郎「たそがれ清兵衛」/森田健作/加藤号/島田陽子/山口果林/緒方拳

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2007/09/19

『善き人のためのソナタ』"Das Leben Der Anderen"

☆地味で知的で実直な「ヒーロー」。

このところあまり良い作品に巡り会えなかったので、自分の感受性が鈍ってきたせいかとさえ思い始めていた。そんな時、久々に私の心にヒットした映画。

ここから先ネタバレというほどではないが、映画未見の人は読まないほうが楽しめます。

反体制派と思われる芸術家の家中に盗聴装置を仕掛け、屋根裏部屋で監視を続ける秘密警察の男。冷徹で緻密な彼は芸術家のひと言ひと言を逃さずしっかり読み取っていく。そして、その知的な頭脳で緻密にターゲットの言動を読み取っていくと、体制側の自分の凝り固まった信念に亀裂が入り始める。彼の中の善き人が目覚めてくる。

英雄の目覚ましい活躍により悪を倒すわけではない。しかし、感情によって行動するのではなく、知性が感情を目覚めさせ、真の判断に行き着くという知的なストーリーが心の底にさわやかさをもたらす。

映画の締めくくりも、格調の高さを裏切らない。

2006年/監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ナースマルク/ウルリッヒ・ミューエ/マルディナ・ゲデック

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2007/09/17

『フライド・グリーン・トマト』"Fried Green Tomatoes"

☆とても良い話なのに私にはこのオチがダメだ。

オチにガクッと来た。そう来なければ、大好きな映画になったのに。

本筋の話の聞き役を演じるキャシー・ベイツがはまり役。可愛いけれど、お馬鹿で人の良い彼女が、夫からないがしろにされる生活から目覚めていく様子が「トゥワンダ」ということばと一緒に頭にしっかりと焼き付けられる。

病院の待合室でこんなおばあちゃんに出会って、こんなお話が聞けたら、素敵だろうと思う。

本筋のほうの話は社会派的なところもあって、こんなオチについていけないなんて甘っちょろいことを言っていてはいけないという感じでもあるのだけれど…。

1991年/ジャン・アヴネット/キャシー・ベイツ「アバウト・シュミット」「ウォーター・ボーイ」「輝きの海」「タイタニック」

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2007/09/14

『ホリディ』"The Holiday"

☆それぞれの役がその俳優、女優のために書かれたようにぴったりのはまり役。

キャメロン・ディアスもケイト・ウィンスレットも一番魅力的な部分が引き出されていた。ジュード・ロウも、ちょっと格好良くないところがカッコイイという一番、キュンと来るぴったりの役。ジャック・ブラックも才能のある、しかし人の良い作曲家という雰囲気そのままの役。

イギリス的な良さとアメリカ的な良さを、そうだったそうだったこういう感じだったと、両方の国に住んでいた頃のことを思い出しながら懐かしく見た。

2006年/監督:ナンシー・マイヤーズ「恋愛適齢期」「ハート・オブ・ウーマン」/キャメロン・ディアス「イン・ハー・シューズ」「「ギャング・オブ・ニューヨーク」「シュレック」「バニラ・スカイ」「マルコヴィッチの穴」「メリーに首ったけ」「真夏の出来事」「ベスト・フレンズ・ウェディング」/ケイト・ウィンスレット「エターナル・サンシャイン」「ネバーランド」「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」「クイルズ」「タイタニック」/ジュード・ロウ「アルフィー」「クローサー」「レモニー・スニケットの…」「コールドマウンテン」「ロード・トゥ・パーディション」「A.I.」「スターリングラード」「リプリー」「クロコダイルの涙」「ガタカ」/ジャック・ブラック「愛しのローズマリー」/イーライ・ウォーラック

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2007/09/12

『きっと忘れない』"With Honors"

☆小ずるく賢いホームレスと関わることになったハーバードの学生

鼻持ちのならない未熟なエリート学生が、住む世界が違う人間、ホームレスの男と接することによってひとまわり違った人間として成長していくというありがちなストーリー。こんなベタな話を私は大好きだ。だから、これは無条件に好き。

ブレンダン・フレイザーは『青春の輝き』や"Blast from the Past"のような、まっすぐに育った青年を演じるとすばらしく輝いていた。その後は良い役に恵まれていないのが残念だ。いつまでも青年ではいられないし、そういう陰のないタイプは時代に合わないからなのだろうが。

1994年/監督:アレック・ケシシアン/ジョー・ペシ/ブレンダン・フレイザー「クラッシュ」「愛の落日 クワイエット・アメリカン」「ハムナプトラ」「青春の輝き」"Blast from the Past"

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2007/09/11

『真夜中のピアニスト』"De Battre Mon Coeur S'est Arrete"("The Beat That My Heart Skipped"

☆昔見たピアニストへの夢が捨てられない才能豊かだった青年が…

いったんは闇の不動産ブローカーとなってから、再びピアニストへの夢に挑戦する。その、いらだつような思い、そして父との葛藤。好きなタイプの映画のはずなのだが、今ひとつの部分が残った。

きっと、ピアノの演奏が主人公の気持ちと連動していなかったからだと思う。上達する様子はわかるが、その弾き方と連動する感情が演奏には感じられない。むしろ、中国人のピアニストの女性とのやり取りは、言葉がわからないのに、音楽のように伝わってくるものがある。このあたりをピアノ演奏でも伝えてほしかったと思ってしまう。

映画にそこまで求めるのが無理なのかもしれないが、「戦場のピアニスト」で演奏されたショパンがCDで聞く普通のショパンとひと味違ったもののように感じられたような、そんなものを期待していたので、少し残念だった。

2005年/監督:ジャック・オディアール/ロマン・デュリス/エマニュエル・ドゥヴォス

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2007/09/07

『ムッソリーニとお茶を』"Tea With Mussolini"

☆女性達がすがりつくものは愚かで滑稽でさえあるが、その女性達は誇り高く美しい。

大戦中、しかも専制君主の国であっても、芸術を愛した人々が世界中から集まり、個性がそこここで生き延びることができていた。そんなイタリア、フィレンツェの雰囲気を感じた。

映画として見ている分に良いが、嫌みで融通のきかないイギリス人(マギー・スミス)は近くにいたら、我慢ならない嫌な人間だと思う。鷹揚さが魅力のユダヤ系アメリカ人(シェール)も魅力的だが近くにいたら「あ~あ」という感じだろう。しかし、それぞれにこだわりに生きる女性達の連帯感のある交流を見ていると、いいなあと思えてくる。

物事にこだわることには、滑稽さ、醜さ、哀しさ、弱さがある反面、美しく、魅力的で、見ているとなぜか元気が伝わってくる。

1998年/監督:フランコ・セッフィレッリ/シェール「イーストウィックの魔女たち」「月の輝く夜に」/マギー・スミス「ハリー・ポッター」「ゴスフォード・パーク」

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