『ランド・オブ・プレンティ』"Land of Plenty"
☆監督の良心を感じさせるすばらしい作品。
911のテロ事件とベトナム戦争とを重ね合わせ、人々の持つ良心を深い苦悩を伴いながら浮き上がらせる。
声高な主張や激しさはない。20歳になったラナは世界を見る確かな目を持ち、内省的心と態度を持つ女性。
ベトナム戦争で心に傷を持つラナの伯父ポールは、911のテロ事件のあと、国を守らなくてはならないという意識に目覚め、グリーンベレー時代の技術を駆使し、活動を始める。
そのラナと伯父ポールの関わり合い、そして、ホームレス支援活動で起きる出来事とアメリカの豊かさを享受できない多くの善良な人々を通じて、観客はこの映画の主題に近づいていく。
世界の中で自分たち(アメリカ)がどう見られているのか。正しいと思ってやっていることと、それに潜むゆがみと偏見、見えていることと見えていないこと、そういったことのギャップを静かに、静かに気づかせてくれる映画。
ラナもポールも、苦悩するアメリカの姿の象徴であり、逡巡する良心の象徴として描かれている。
911をヒーローものとして描いた「ユナイテッド93」と比べて、こちらには成熟した国としてのアメリカ観を感じる。監督はドイツ人ではあるのだけれど。
ここからネタバレ反転→911の時、崩れていくツインタワーを見ながらパキスタンでは人々が歓声を上げていたという話をポールはラナから聞かされる。その時、ポールが「そんなに我々は憎まれているのか」と呆然とした顔をする場面がある。ここで、怒るのではなく呆然とするところに彼の単純で素直な良心、ひいてはアメリカの良心を感じた。そして「親たちの良いところばかりを受け継いだ娘」と母親が表現したラナ。監督は若い世代に受け継いでほしいものをこの映画に込めたのだろう。
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