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2007/08/16

『ヴェロニカ・ゲリン』"Veronica Guerin"

☆彼女の意志を継いだアイルランド人の底力を感じた。

すごい話だと思った。特典映像にあるヴェロニカ本人のスピーチは必見だ。ひとつの「正義」にこだわり、それを追求することがやめられなかっただけの単細胞英雄ではなく、きちんと社会事情や複雑に絡み合った政治的な状況も理解している人間の行動だったことがわかる。

映画はひとつのテーマを描くものなので、そこに感動があり、感動と共にテーマが伝わる。しかし、それが実話である場合、「で、実のところは?」という疑問がどうしても残る。幸せな家庭を築き、失うことのできないものをたくさん持っていた人が危険に挑むという主要な部分の上にさらにある重厚な部分を描くのは難しい。だから、このスピーチは見る価値がある。映画という手段ではわからなかった1点が、本人のこの短いスピーチを見ただけで感じ取れる。もちろん、この映画があったからこそ伝わってくるものでもある。

彼女は、麻薬のことを訴え、自分の仕事を支えてくれた家族に感謝しているだけではなく、報道の置かれた状況を冷静に把握し、実務的な感性も持って訴える。またスピーチの中で、そういう報道がアイルランドの評価を下げることのないようにという配慮も見せている。

冒頭、捨てられた注射針で遊ぶ幼い子どもの絶望的な映像を見せられたが、彼女の行動と、それを原動力にして、社会を変えたアイルランド人はすごいと思った。

2003年/監督:ジョエル・シュマッカー「オペラ座の怪人」「フォーン・ブース」/ケイト・ブランシェット「コーヒー&シガレット」「シッピング・ニュース」「シャーロット・グレイ」「ギフト」「理想の結婚」「リプリー」「オスカーとルシンダ」/キアラン・ハインズ「ミュンヘン」「オペラ座の怪人」

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2007/08/11

『ランド・オブ・プレンティ』"Land of Plenty"

☆監督の良心を感じさせるすばらしい作品。

911のテロ事件とベトナム戦争とを重ね合わせ、人々の持つ良心を深い苦悩を伴いながら浮き上がらせる。

声高な主張や激しさはない。20歳になったラナは世界を見る確かな目を持ち、内省的心と態度を持つ女性。

ベトナム戦争で心に傷を持つラナの伯父ポールは、911のテロ事件のあと、国を守らなくてはならないという意識に目覚め、グリーンベレー時代の技術を駆使し、活動を始める。

そのラナと伯父ポールの関わり合い、そして、ホームレス支援活動で起きる出来事とアメリカの豊かさを享受できない多くの善良な人々を通じて、観客はこの映画の主題に近づいていく。

世界の中で自分たち(アメリカ)がどう見られているのか。正しいと思ってやっていることと、それに潜むゆがみと偏見、見えていることと見えていないこと、そういったことのギャップを静かに、静かに気づかせてくれる映画。

ラナもポールも、苦悩するアメリカの姿の象徴であり、逡巡する良心の象徴として描かれている。

911をヒーローものとして描いた「ユナイテッド93」と比べて、こちらには成熟した国としてのアメリカ観を感じる。監督はドイツ人ではあるのだけれど。

ここからネタバレ反転→911の時、崩れていくツインタワーを見ながらパキスタンでは人々が歓声を上げていたという話をポールはラナから聞かされる。その時、ポールが「そんなに我々は憎まれているのか」と呆然とした顔をする場面がある。ここで、怒るのではなく呆然とするところに彼の単純で素直な良心、ひいてはアメリカの良心を感じた。そして「親たちの良いところばかりを受け継いだ娘」と母親が表現したラナ。監督は若い世代に受け継いでほしいものをこの映画に込めたのだろう。

2004年/監督:ヴィム・ヴェンダース/「ベルリン・天使の詩」「パリ、テキサス」/ミシェル・ウィリアムズ/ジョン・ディール

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2007/08/10

『ユナイテッド93』"United 93"

☆「ボーリング・フォー・コロンバイン」を見ることにした時も感じたためらいと同種のものをここでも感じた。

普通のパニック映画と同じような感覚で見てしまうことがあってはならない。しかし、それは観客に委ねられる部分より、制作者の姿勢の問題が大きい。大丈夫かなと。

そういう目で見ると、ひどい傷を負って、早い段階で死んでいく人の描写は見るに忍びなかった。これはパニック映画ではない。実在のその人物は映画の早い段階で死んでいく「脇役」ではなく、その人の人生の「主役」として存在していたのだから。本人や遺族は「この事件を忘れないでほしい」と思いながらも、「見てほしい」とは思わないのではなかろうか。

しかし、飛行機外の描写は興味深かった。あれだけの過密状態で飛行機が飛び交っているとは。ことばとしては聞いていたが、ああいう形で見せられると、そしてその中で、不特定の複数機がハイジャックされたと言われても…と、それだけで呆然としてしまう。本筋と関係ないこの部分は興味深かった。しかし、だからこそ、アメリカ空軍は本当に追い付くことさえできなかったのか、非常事態に政府となかなか連絡が取れなかった理由は?そこを調査して描かなかったことが評価できない。「再現」に重点を置いたからなのだろう。

見る前に抱いた予感は少し当たってしまった。あの悲惨な事件を数年しかたっていないのに「再現」以上のものにならなかったことに違和感を持ってしまった。「ボーリング・フォー・コロンバイン」を見終わった時はそんなふうには感じなかったのに。

その後、「ランド・オブ・プレンティ」を見て感心した。「ランド~」では、この事件を「再現」ではなく「内省」で描いていた。

2006年/監督:ポール・グリーングラス

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