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2007/07/23

『カランジル』"Catandiru"

☆表紙の衝撃的な映像に圧倒され、気にはなっていたものの、ずっと見ることができなかった。

血なまぐさい暴力に圧倒されたのではなく、人間らしさを奪われた人達の姿を見ただけで気が滅入ってしまったのだ。ある意味、死体より衝撃的かもしれないとさえ感じた。

物語は、当時の資料にも残されているその場面に向かって進んでいく。しかし、それ至るまでに描かれる刑務所の中は生き生きとしている。もちろん、刑務所の中に入ってもなお私刑を恐れて暮らす人々、目を覆いたくなる非衛生さ、蔓延する伝染病といったマイナス面はあるのだが、そこからこぼれ出てくる個性と芸術と生命力に目を奪われた。私が「個性」と認識している範囲をはるかに超えた人々と、雑然とした中に場所を見つけて生きる芸術性がそこにはあった。

特典映像に入っている当時の記録フィルムを見ると、映画はちょっと誇張されていると思える部分もあった。しかし、もともと拘置所だったところがなし崩しに刑務所になっていき、未決囚が何年も未決のまま収容されている過密状態を数字と知識として知ると、蒸気が吹き出すようなあの暴動の元は理解できる。

ネタバレ反転→囚人達が窓からナイフを投げて、それが地面を覆っていく場面はあとから振り返ると、とても悲しい。

ロドリゴ・サントロがドラッグクイーン役で出演している。単に女っぽいというのではなく、それらしさを損なわずに様々な表情の変化を演ずるのはすばらしい。

2003年/ヘクトール・バベンコ/ルイス・カルロス・ヴァスコンセロス「ビハンド・ザ・サン」/ロドリゴ・サントロ「ビハインド・ザ・サン」

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2007/07/12

『チャーリング・クロス街84番地』"84 Charing Cross Road"

☆手元に置いておきたくなるような良い作品。

イギリスに住んでいた頃、魔女の絵本を集めていた。いや、日本にいる頃から集めていたのだが、魔女が主役になっている絵本はそれほど出ていなかった。それがイギリスでは、探せば結構見つかるという程度にあったので、すっかりハマってしまった。

この映画に出てくるような本屋で、ゆっくり探していき、レジに持って行く。時には「魔女の本が好きなの? それならこんなのもあるの、とっても素敵なの」と、本当に素敵な本を、私が気がつかなかった棚から出してきてくれることもあった。別に魔女の本でなくても良かったのだが、本屋が好きだったので、どこかに出かけても必ず、ホテルから歩いて行ける場所の本屋に入ってかなりの時間を過ごしたものだった。

そんな思い出があるからかもしれないが、この映画はゾクゾクするほど好きだ。イギリスの本が手に入らないニューヨークに住む作家の女性が、イギリスの書店の店員と文通を楽しみながら本を購入していく。何年も何年も……。同じ英語を話すのに、食卓の風景は全然違う。暮らしも違う。でも、2人のまわりの人たちもこの交流を楽しみに生きている。

自分が読みたい本を何年にもわたって把握し、探してくれる人。普通とは違った形だが、ここまでの理解者というのは滅多に得られるものではない。いいなあと思う。

1986年/監督:デイヴィッド・ジョーンズ/アン・バンクロフト「大いなる遺産」「G.I.ジェーン」/アンソニー・ホプキンス「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」「白いカラス」「9デイズ」「アトランティスのこころ」「ハンニバル」「ハーモニーベイの夜明け」「ジョー・ブラックをよろしく」「アミスタッド」「日の名残」「羊たちの沈黙」

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2007/07/10

『理想の結婚』"An Ideal Husband"

☆軽く、洒落ていて、的を射た台詞が小気味よく飛び出す。

まるでシェークスピア劇を見ているような展開。
とんでもない偶然が重なり、観客は「違う!後ろ、後ろ、ちゃんと見て!」とヤジを飛ばしたくなるような局面にヤキモキする。あっちで誤解を生みこっちで誤解を生む展開だが、人物像がはっきりしているので理解しやすい。似てはいるけれど、シェークスピアより、感情移入しやすいと思って見ていたところで出てきた。劇中劇のカーテンコールでオスカー・ワイルドが紹介されて、皮肉を言う。そうか、彼の作品だったのかとここで気がついた。

正しさにこだわり、理想的であろうとする紳士・淑女をおちょくってはいるが、その姿を愛してもいる人の作品。原題は「理想の結婚」ではなく「理想の夫」だ。理想の夫を求める女性も、ただ求めているだけでなく、自己主張があり自分の考えがあり、またそこが滑稽で、変に窮屈だったりする。イギリス人が好みそうな作品だと思った。

イギリス英語がよくわかる人と一緒に見ていたら、アーサーとメイベルの会話に笑いこけていた。もちろん訳語でもおもしろいことはわかるが、そこまで軽妙で洒落た会話なのかと、うらやましく思った。

1999年/監督:オリヴァー・パーカー/ケイト・ブランシェット「シッピング・ニュース」「シャーロット・グレイ」「ギフト」「リプリー」「エリザベス」「オスカーとルシンダ」/ミニー・ドライバー「グッド・ウィル・ハンティング」/ルパート・エベレット「ベスト・フレンズ・ウェディング」」/ジュリアン・ムーア「フォーガットン」「めぐりあう時間たち」「シッピング・ニュース」「ハンニバル」「クッキー・フォーチュン」「マグノリア」「マップ・オブ・ザ・ワールド」「サイコ」「ビッグ・リボウスキ」/ジェレミー・ノーザム「ゴスフォード・パーク」

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2007/07/09

『マペットのクリスマス・キャロル』"The Muppet Chiristmas Carol"

☆元祖?かどうかわからないが、早い時期のマペットと人間の競演。

『クリスマス・キャロル』には、絵本で、本で、映画で、舞台でといろいろな形で触れてきていて、その度に「いいなあ」と感じてきてはいる。

ただ、中産階級のユダヤ人の住む地域で暮らす体験を持ってからというもの、単純に「クリスマスを祝わないこと=悪い」とすることにブレーキが掛かり、素直な鑑賞モードに入れない自分がいるのも確かだ。

しかし、この作品はマペットと人間が一緒の画面で演技をする「セサミストリート」的な手法を用いていることが功を奏して、雑音を排し、単純化した善悪の世界を描くことに成功していると思った。

昨年、ブロードウェイで、マペットと人間が舞台で一緒に演じるミュージカル「アベニューQ」を見た。ものすごく斬新なものに感じたのだが、1992年にはもうこの手法の映画が出来ていたのだ。「アベニューQ」では、マペットの演技がさらにパワーアップしている。最初にこの手法を考え出した人に敬意を表したい。どの作品が最初で、誰なのかわからないが。

1992年/監督:ブライアン・ヘンソン/マイケル・ケイン/スティーブン・マッキントッシュ

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2007/07/07

『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』"Enron:The Smartest Guys in the Room"

☆実態のつかみにく巨大悪を描き出すドキュメンタリー。

アメリカの大企業が、形のない利益を上げ、株式価格を上げ続け、進んだ会社と思わせつつ、倒産していった過程を追う。タイタニックに例える話し方はわかりやすいし、上手に大金を手にして先に下りていった人がいたことがわかる。カリフォルニアの電気の話は、あまりの展開に、そして、ハマリすぎのモラルのない言葉に、「これ、一時代前に描かれた近未来のSF映画?」とまで思ってしまう。しかし、黒い影がどこでどうつながり、政治家や大手の銀行にまでつながっていったのかはやはりわからない。

時価会計という、将来の利益を見込んだ会計が映画の中ではやり玉に挙がっているが、それは一般的には行われている方法のはず。説明不足だ。悪いのは方法ではなく、それを悪用した会計士。そして、規範を教えて、内部から警告を出すはずだった弁護士。それぞれがそれぞれの担える部分だけでも誠実に実行していれば…などと考えるのは、まだまだ考え方が甘いからだろうか……。

2005年/監督:アレックス・ギブニー/ケン・レイ/ジェフ・スキリング/アンディ・ファストウ

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『イン・ディス・ワールド』"In This World"

☆ロードムービーは他にもあるが、その中でも別格に困難で壮大な旅。

舞台となった土地のうち、ごく一部の安全な場所は訪れたことのある。しかし、それでさえ快適な冷房付きのバスで行ってもハードな旅だった。こんな旅は想像もつかない。そんなにまでして行っても、トルコやロンドンで垣間見たことのある外国人労働者のことを思い出すと、なんでわざわざ家族と別れて…と思う。しかし、振り返り、もう一度難民キャンプのことを考えると、「それでも…」と考える親がいることも納得できる。

国境から国境へといくつものブローカーの手を経て、密入国させる仕事があること。第三者が料金の半分を預かり、無事目的地に着くと残りの半分がブローカーの手に渡るというシステムが興味深かった。

誰を信じて良いのかわからない状況の中で、人を見極め、時には賄賂を渡して切り抜けていく2人のたくましさを見ると、自分の弱さを思う。そして、どこでも祈りを欠かさない彼らを見ると、純粋な信仰を持つ人々が孤立していくことへの憤りも感じる。

特典映像の監督や脚本家の話は、本編の映画と同じくらい興味深い。これを見ると、映画はフィクションだが、その背景にあるノンフィクションの部分がくっきりと浮き出てきて、理解が深まる。

先日見た映画『グアンタナモ、僕達が見た真実』と思いが重なった。

監督:マイケル・ウィンターボトム/ジャマール・ウディン・トラビ/エナヤトゥーラ・ジュマディン

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