『クィーン』"The Queen"
☆イギリスで過ごした日々を思い出した。
ダイアナ妃が亡くなった時、イギリスの郊外に住んでいた。静かな場所だった。日曜日はさらに静かで、時折、乗馬を楽しむ人が通るのんびりとしたパカパカという蹄の音が響くだけのようなところだった。
ところが、その日は、一度もその音が響かなかった。地域全体が静まりかえっていた。
その朝、教会から出て来たブレア首相へのインタビューは、外国人の私から見ても胸を打つものだった。普段通っている教会から出てきたところにマイクを向けられ、即席に語った言葉のように思えた。
日本を出てくる少し前に体験した昭和天皇の亡くなる前の年末の町の風景と重なった。
宮殿の前ばかりでなく、小さな町々のタウンセンターも人々が花束を持ち寄り、飾られていった。当時の私は、タブロイド版まで細かくチェックしていたので、国中の白い花が売り切れて、緊急輸入したという小さな記事まであったことを思い出した。
あの日のこと、あの頃のことすべてが一気に蘇ってくるような映画だった。女王が語っていた、静かに、騒がず、悲しむ良識ある英国人というものを、肌で感じながら過ごしたことを思い出した。
いろいろな感情が渦巻いたできごとを、きれいにまとめている。エリザベス女王の描き方も、ブレア首相の描き方も、すべて、ギリギリセーフなところで止めている。あの描き方なら、イギリス国民は受け入れるだろうと思った。
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