『バス174』"ONIBUS 174"
☆「シティ・オブ・ゴッド」の世界で実際に起きた事件のドキュメンタリー。
ドキュメンタリーの凄さを感じた。テレビで流されたバスジャックの生放送映像が時系列で映されていく。その合間に独自取材したインタビューが入る。インタビューは、人質となった人々、警察官、犯人サンドロの叔母、ストリートチルドレン、社会学者、ソーシャルワーカー、監獄の中の囚人やギャングにまで及ぶ。
この事件はブラジルのテレビ各社がリアルタイムで放映され、高視聴率となった。「BUS174」でこの事件の流れをたどると、監督による再構成によって、リアルタイムで目撃した以上の理解が深まる。事件の背景、「見えない子ども達」となってしまっているストリートチルドレンの実態、警察の腐敗、囚人の扱いがさらに新たな暴力を生み出していることなどの社会構造が見えてくる。
事実だけを映しているようでも、再構成されたストーリーは思想を雄弁に物語る。それがドキュメンタリーなのだと感じた。凄い内容だった。高く評価できる。
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ここから先は蛇足だ。私は、テーマから外れて語られなかった部分が気になってしかたがなかった。殺された女性については、あまり描かれていない。しかし、彼女がバスの外から見てわかるほどに全身をわななかせていた姿が、目に焼き付いて離れなくなってしまった。まだ少し余裕のある局面であり、殺される寸前の映像ではなかったにも関わらず、内部からわき出てくる恐怖に全身を大きく震わせていた。
警察と選挙を控えた政治家は、人質1人くらい殺されてもしかたがない。その時なら犯人を撃てると踏んでいたのではないか。他の人質達の行動に若干の余裕があったのも、真っ先に殺されるのは自分ではなく、彼女だということを無意識にしろ感じていたのではないか。なぜなら彼女は犯人の信用を失うようなことをしてしまったから。彼女もまわりの人間もわかっていた。インタビューに答えた警官も「殺されるとしたら彼女だと思った」と言っている。
そして、彼女は「見えない子ども達」と同じ構造で、「見てもらえなく」なってしまったのだ。
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