『ロジャー&ミー』"Roger & Me"
☆マイケル・ムーアのスタート地点が見られる作品
マイケル・ムーアの作品の中で、私は『ボーリング・フォー・コロンバイン』が特に好きだ。哀しさが伝わってきて、静かに内省する時間を与えてくれる。その元の形がこの『ロジャー&ミー』の中にも見られる。
工場閉鎖。大企業GMに依存していた町がぼろぼろになっていく。それなのに、組合を最初に作ったような土地柄もあって、人々には企業がどうにかしてくれるのではという体質が残っている。明るく笑顔で工場最後の製品となる車を送り出す人々の表情を見ると痛々しい気持ちさえしてくる。経営者はそれどころではない。貧富の差は広まる。
このドキュメンタリーの中に出てきた新しい起業の試みが哀しい。フリントを観光都市として再生しようとした市の幹部職員、お祭り騒ぎのあとに残る廃墟。ベンチャー企業を作ったり、新しい仕事で失敗していく試みは必死で哀しいのに、なぜか滑稽に映る。このあたりが後の作品で、もっと説得力のある形でクローズアップされていく部分だと思う。
のちの作品と違って、攻めのインタビューをしていないところも興味深い。しゃべっていないと不安になるアメリカ人の心理を逆手に取って、「間」を作る。不安になったところで、ついしゃべり出してしまう人をカメラは捉える。のちの作品を撮る頃には、もう相手が彼を「こいつは危険人物だ」と考え、身構えるようになってしまっているから、この手法がとれなくなったのだろう。
この映画のオーディオ・コメンタリーは必見だ。ドキュメンタリーの中で、ムーア自身がナレーターとして語っているのに、そこにさらに彼自身の解説が付く。不思議な二重構造がさらに状況を深く語ってくれる。
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