『クラッシュ』"Crash"
☆これをクリスマス映画として作ったこと自体ににメッセージを感じる
アメリカの都市郊外に住んでいた頃の感覚を思い出す。
冒頭、「r」と「l」を混同して発音してしまうアジア人への中傷から始まり、口を開くたびに人種差別発言となり、耳をふさぎたくなるような場面が続く。
実際の生活では、そこまではっきりとことばにされた経験はないが、心の中のことばを漫画の吹き出しみたいなものに入れて見せたら、この映画と同じになるだろうという体験は何度もあった。
差別的な人も善行をし、善行をする人もひょいと差別的な心が出てしまう。真実だ。
嫌になるほど醜い現実を見せつけられ、「まったくその通りだ」と徹底的に落ち込んだところで見せられる、ほんの少しの間のキラリと光る人間らしい行動。その瞬間を心に留めながら、また醜い社会と、醜い自分を生きていくというクリスマス映画だ。アメリカ人はうなずきながらこの映画を観るだろう。
ネタバレ!反転させて読んでください。ここから→「おとうさんは持っていないの」と言って銃弾の前に走り出ていく鍵修理人の1人娘は本当にかわいらしい。銃声のあと、落ち着いた声で、泣き叫ぶ母親に「おとうさんは大丈夫よ(Dad is OK)」と大人のようになぐさめのことばを掛ける場面はすばらしい。本当にエンジェルだ。あんなかわいらしい子役をよく見つけ出してきたものだと思う。
母親に可愛がられていた不良の弟と、自分が食料を入れておいたのに弟の行為だと思われ、母親に嫌われたままになってしまう優秀な兄(ドン・チードル)。その弟もワルになりきれていないし、その弟が、正しくあろうとがんばっていた警官にふと湧き出してきた恐怖心から殺されてしまうのも悲しい。その原因があの置物だというのもまた悲しい。
いくらきらめく美しい瞬間を見せられても、もう一度アメリカに住みたいかと問われたら、住みたくないと答えるだろう。でも、転勤することになったら行くしかない。そして、自分のこの「アメリカにはもう住みたくない」という気持ちもまた、差別意識なのだと思う。
・クラッシュ@映画生活
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コメント
そうですね、差別ってちょっとしたことから自分でも気づかないうちに出てるもんなんでしょうかね。
あの優しい警察官も何故あのような結末になったかなど、色々考えさせられる映画でしたね。
私も天使のマントのお話は好きです。
上手く作ったなと思いました。
投稿: KAZU | 2006/07/29 19:07
KAZUさん、いつもありがとうございます。
そうなんですよね。なぜなんでしょう。ふと湧き出した恐怖心からああいう結末になったのでしょうけれど、車を焼いて証拠隠滅を図るところまで行くとやはり「何故?」と言いたくなります。自動車が燃え上がるのを見ながら、きれいだと感じている人もいるし、木を投げ入れ燃えさかるのを見て高揚感を感じている人々もいる。すべてが表になり裏になり、つながっていっているんだなあと思いました。
投稿: ちんとん@ホームビデオシアター | 2006/07/30 14:05