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2006/06/09

『まぼろし』"Sous le Sable"

☆見終わっても、まぼろしの中に置き去りにされたような感覚が続く

!!注意!!徐々にネタバレします。注意!!

長年連れ添った夫ジャンが、バカンス先の海岸で突然行方不明になる。友人達の心配をよそに、夫の幻影と暮らし続けるマリー(シャーロット・ランプリング)。彼女は異常をきたしているのではない、と私は思う。マリーは認めたくない思いを「まぼろし」という形であいまいなままにしておくことで、精神の均衡を保というとしているのだ。

そんなある日、マリーは夫が抗うつ剤を飲んでいたことを知る。全く気づいていなかった。空気のような存在となり、ぴったり合っていたはずの夫なのに、何も知らなかったのだと思い始める瞬間は恐ろしい。

マリーは義母を訪ねる。母親は、自分は息子の鬱状態を知っていたと主張する。「息子は妻に飽き飽きして、旅に出たのだ」と主張する義母は、息子が今もどこかで生きているに違いないと想像することで精神の均衡を保っているのだ。

真実と向き合わなくてはならなくなったマリー。「夫が自分を捨てて放浪の旅に出た」ということは、「夫の死」以上に受け入れがたい。義母の妄想が正しいのなら、マリーの精神の均衡を保つカナメであるまぼろしは崩壊してしまう。

マリーは夫の腐乱死体と対面することで、彼の死をしっかりと認識することを選ぶ。そして、また「夫」との生活を始めることができるようになるのだ。

最後の場面。ふたたび、まぼろしの中で生きるほうを選ぶのかと思う。しかし、しっかり眺め、つかんで、生きているつもりのこの現実もまた幻影なのかもしれないと感じさせられ、観客は不思議な感覚の中におきざりにされる。

2001年/監督:フランソワ・オゾン「スイミング・プール」/シャーロット・ランプリング「家の鍵」「スイミング・プール」/ブリュノ・クレメール

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コメント

またもや、ちんとんさんの記事に触発されて、古い感想文をアップしてみましたので、TBさせていただきました。
私も、やはり、義母とシーンが印象に残りました。同じ女どうしでも、心のバランスの保ち方が違うだけで全てかみ合わなくなるんでしょうか。
ハッピーエンドなのかそうでないのかすらわからないような、微妙な浮遊感というか、モヤモヤとしたままの開放感というか…そういう“不思議な感覚”を受けとめられるかどうかで、好き嫌いが分かれそうな映画でした。

投稿: バウム | 2006/06/12 00:14

バウムさん、私の記事をきっかけに書いていただいたとのこと、ありがとうございます。ブログの醍醐味、うれしいです。

この映画、見た直後、かなりボーッとしてしまいました。どう解釈して良いのか全然わからないし、あの人影もいったいなんなのと。『スイミング・プール』はわからないままでも良い作品だけれど、こっちは解答が知りたいと思いましたから、好き嫌いが分かれそうな映画というご意見、その通りだと思いました。

宮本輝も同じ題材で本を書いているんですね。読んでみたくなりました。

投稿: ちんとん@ホームビデオシアター | 2006/06/12 19:59

宮本輝の『幻の光』は映画化もされてますね。映画も原作も両方とも違う魅力をもっています。
『スイミング・プール』は未見なのですが、観てみたい作品の一つです。オゾン監督作品は一見、品が良いようにみえてかなり毒気があるので手を出しにくくて・・・。でもちんとんさんが気に入られたというのを聞いて再び興味がわいてきましたー。感想がアップされるのを楽しみに待っていますね~。

投稿: バウム | 2006/06/12 21:49

さっき、この記事の中にリンクを張ったばかりなのですが、『スイミング・プール』の感想はもう書いているんですよ。でも、何の先入観もなしで観るほうがおもしろいかもしれないので、どうぞ、読まないでご覧になってください。

シャーロット・ランプリングは、『まぼろし』以上に演技が光っていることは確かです。

投稿: ちんとん@ホームビデオシアター | 2006/06/12 22:45

おっと、チェックが甘かったですね。失礼しました。最近久しぶりにレンタル会員になったもので(お金がなくてやめてたんです)、借りたいDVDリストを作っているところです。もちろん「スイミング・プール」もリスト入り決定です。オススメどおり、観た後で、記事を読ませていただきますね。ありがとうございました。

投稿: バウム | 2006/06/13 18:03

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