『日の名残り』"The Remains of The Day"
重層的な意味を持った深い作品。たぶん、小説はさらに重い意味を持つのだろうが、映画としてもすばらしい味わい深さが出ていた。
アンソニー・ホプキンスが演じる、執事スティーヴン。英国的品格を重んじ、厳格な執事として生きる。そして、その完璧さゆえに、ミス・ケントン(エマ・トンプソン)の彼への気持ちに気づかないだけでなく、自分自身の気持ちにも気づくことができない。
同様に、彼がすばらしい人格の持ち主と敬愛し執事として仕えたダーリントン卿も、別の意味で理想主義ゆえの間違った人生を歩む。ヒトラーが台頭してくる時代だ。ダーリントン卿は品格があり理想主義であったのに、その"理想主義"そのものによって、どこかで歴史を読み間違え、本来あるべき理想を見失う。
2人はだぶって見える。取り返しのつかない日々を、人生の日の名残りの時間に振り返る旅。
アンソニー・ホプキンスの押さえた演技に加えて、エマ・トンプソンの、背筋を伸ばした毅然とした演技が可愛らしさを漂わせている。2人の演技は本当にすばらしい。そして、歴史的な間違いを、身近なものに引き寄せて考えさせられる、上質な映画だと思った。
・日の名残り@映画生活
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