『タッチ・ザ・サウンド』"Touch the Sound"
音を聴くことは、音に触れること。それが、エヴリンを通して伝わってくる。物と物がぶつかって、そこから音が聞こえてくるという表面的なものではなく、その下にある空間、その物体との触れ方、接触、質感、そして叩く人間の骨格、身体、内臓、さらにはそれらのまわりにある空気すべてから、その音の深みが醸し出され、振動という形で、伝わって来るものであることが、感じられるような気がしてくる。
エヴリンは聴覚障害者だ。取材の電話には、いったんそれを受けて口形をなぞる人、という仲介を経て答える。しかし、「聴覚障害者なのに」という表現は当てはまらない。たぐいまれな音楽の才能を持った音楽家が、たまたま成長の過程で聴覚を失ったことにより、聴者が気づかない音の深さ、メカニズムを感じることができるようになり、ドラマーとして新しい境地を開拓したという言い方のほうが正確だ。
エヴリンが生み出し、イヴリンが「聴く」音と、私が聴く音とが同じだろうかと、ふと思う。そして、そこにのせた気持ちを感じることが、同じ音を聴くという意味ではないかということに思い至る。
ニューヨーク、スコットランド、イギリスのケンブリッジ近郊、日本と、私にとって意味のある土地を巡っていく旅だったこともあり、格別の思い入れをもって見入ってしまった100分だった。
このところ、岩波ホール「二人日和」、銀座テアトルシネマ「ホテル・ルワンダ」と、メジャー系でない映画館の良さにはまり始めている。この作品も渋谷ユーロスペースという"通"な感じの映画館で鑑賞。
・タッチ・ザ・サウンド@映画生活
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