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2006/04/04

『ホテル・ルワンダ』"Hotel Rwanda"


見終わってしばらくは何も言えなかった。ことばを発するのも恐いくらいだった。涙を流したり、感動したり、心を洗われたりしたのでは、落としてはいけない何かを捨ててしまうことになる。この不安定な気持ちをそのまま持ち続けなくてはと思った。

しかし、書き留めておかないとその雰囲気だけが残って消えていきそうなので、映画鑑賞から1週間経とうとしている今、つたない文章を書き留めておくことにした。

知らなかった。いや、知らなかったわけではない。小さな記事が新聞に載ったことは覚えている。ツチとフツということば、それになんだかすごい数字だけは記憶にあった。しかし、それだけだった。知らない国の知らない出来事のままだと想像できない。

この映画には、普通の映画に出てくるようなタイプのヒーローは出てこない。主人公のポールは、西洋寄りの特権的立場にいるし、賄賂も使う。おまけに、頼りにしていた"世界"から見放されて無力にもなる。

しかし、彼はこれまでにビジネスの世界で発揮してきた才覚を、非常時においてもこれまで通りのやり方で発揮した。考え、戸惑い、混乱し、無力感を持ち、困難の中から"結果的に"、正しいことを選択していくことになる。自己犠牲や世の中を救うことを考えているわけではない。ただ家族を守りたいという気持ちと自分の仕事に対する誇りがあるだけだ。国連のオリバー大佐も記者も赤十字の女性も、無力な面は無力なままだ。

ビルの屋上での2人のシーンは示唆的だった。平和な国にいる私たちはテレビの画面に映る湾岸戦争の映像を見た。あの映像のような光景が、少しだけ隔離されて安全なところにいる2人の目に映る。しかし、2人は、俯瞰することのできるその光景が、そのまま無力な自分達のまわりで起きている現実であることを実感している。

映画には描かれていないが、このモデルとなった家族は、実際に国を抜け出すまでの間、つかのまの安全圏であったホテルから離れた後、さらに多くの試練に直面している。混乱の中、捨象されている部分のほうが多いくらいであろうことは、映画を観ているだけでも伝わってくる。また、今も活躍しているこの実際の人物のことを考えると、映画の中のポールよりさらにやり手でたくましい人物であろうことも想像できる。しかし、この映画のメッセージは重要だ。平常時、目の前にある仕事で発揮してきた能力をそのまま使って、最善を尽くして困難を切り抜けることが可能だということ。自分のやるべきことを見失わないことが大切だということ。

普通、映画を観たり本を読んだりすると知ったことが増えるものだ。しかし、この映画を観ると、知ったことの後ろにある知らないことがさらに増えて、迫ってくる。もっともっと知らなくてはと思った。目の前のことと、もっともっと遠くで大きく全体を動かす力、その2つを知りたいと思った。

監督:テリー・ジョージ/ドン・チードル「クラッシュ」「16歳の合衆国」「オーシャンズ11」「ミッション・トゥ・マーズ」「トラフィック」「ブルワース」/ソフィー・オコネドー/ニック・ノルティ/ホアキン・フェニックス「ヴィレッジ」「サイン」「グラディエーター」「リターン・トゥ・パラダイス
ホテル・ルワンダ@映画生活

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1994年のフツ族によるツチ族の大量虐殺は、過去のことと呼べるほど昔のことではありません。人類にとって教訓とすべき大きな事件だったと思います。その中で、1200人もの命を救った実在のホテルマンの話です。 高級ホテル「ミル・コリン・ホテル」の支配人ポール(ドン・チードル)は、ツチ族である妻らを守ろうと、ホテルに多くの人々を匿います。そして、武装勢力から彼らを守るため、知恵を絞り、ギリギリの攻防を繰り広げます。 国連軍の無力さと現場隊員たちの苦悩も痛いほど描かれています。それは、国際社会がい... [続きを読む]

受信: 2006/07/22 15:22

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