『16歳の合衆国』"The United States of Leland"
恋人の弟であり、知的障害者である少年をリーランドは殺す。家で熱帯魚の水槽を見つめながら、静かに、「…think I made mistake」 とつぶやくリーランド。
彼は、その凶悪な犯罪からは想像もつかないほど、物静かで、感性が鋭く、知的で、深く考える力を持っている。
青春期には、こういう鋭い、人生の断面を見抜く力に優れる時があることを思い出す。成長するにつれて、それらを統合する力が出てくると、ひとつひとつの断片に対する鋭さは鈍くなっていく。
リーランドは、特に知的能力が高く、作家である父親譲りであろう洞察力も備えていた。しかし、父親不在の環境もあって、それらを統合する端緒を見出すことができなかった。しかし、彼の考える力はすばらしい。安易に「理由」を見つけず、安易に「意味づけ」をせず、ひとつひとつを結論の出ない状況のまま抱え込み、文章にし思考していく。
犯罪は取り返しのつかないものであった。それによって、たくさんの人間関係が崩れていってしまった。それらに対する哀しさを感じると同時に、犯罪者である青年にも哀しさを感じる。「ごく普通の…」とは思わない。犯罪者の青年はたぐいまれなる感性の持ち主だと思う。それは「美徳」のようにも見えるのだ。それなのに、それが犯罪を引き起こしている。哀しい。
『アメリカン・ビューティー』にも似た、いわゆるWASPの悩める姿が、よりわかりやすい形で、心に染み入るように描かれていると感じた。
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