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2005/07/07

『マグノリア』"Magnolia"


これまで見てきたオムニバス映画とはひと味違った質の高さを感じた。

それぞれの話のテーマが同じだというだけでなく、ストーリーの緩急の足並みが全部のストーリーでそろっている。「緩」の場面では同時に「緩」のストーリーが展開し、「急」の場面で同じ「急」の曲が流れる。

序盤はすべてのストーリーが、不幸が起きそうな予感に満ちて始まる。「瀕死の重病人」「父親にわめくコカイン中毒の娘」「嘘の臭いがプンプン漂ってくる自己啓発セミナー」 すべてのストーリーが同じように不安感を増していくが、それが相乗効果をもたらし、さらにわけのわからない不安を増幅させる。

増幅させたところで、混乱と嵐の前の静けさが訪れる。「インタビューで沈黙する男」「回答席に立たないと言う天才少年を前にじりじりする大人達」「雨の中、静かにガレージに戻ってくる車」。すべてが同時に動き出しそうな予感。

そして、それぞれの心の中に小さな変化が起きる。「天才少年の自己主張」「銃を落としてしまう警官」「盗みを決意する元(もと)天才少年」「思いがけない電話に壊れ出す性のカリスマ伝道師」

音楽の高まりと同時に一気にすべてのストーリーは動き出す。

オムニバスで表現するには深すぎて、難しそうな、「自分を克服すること」がテーマとなっている。「悪いヤツ」や「間違っているヤツ」ばかりではない。最初からすべてに好感が持てる警官のような人でも、その「正しくありたい」という思いを、少しだけ軌道修正することで、さらなる人生の展開があるかもしれないのだ。自分の心の奥底に潜むもの、正しくなかったこと、それらをまっすぐ見つめること。弱さを知ること。その弱さを無用な強さでカバーするのではなく、正直にそれを表現することで、人は解放されて新たな歩みを続けられる。

予期せぬ、全然すがすがしくない出来事のあと、妙なすがすがしさが全体を覆う。

ネタバレの質問→ストーリーが始まる前に、自殺する人がビルから飛び降りるシーンがあります。あの人の飛び降りる格好、蛙が落ちてくる格好と似ていると思うのですが、そのふたつが似ていることに何か意味はあるのでしょうか。3人の死刑囚の話もどうつながるのかよくわからなかった。


1999年/監督:ポール・トーマス・アンダーソン/死の床にあるアール:ジェイソン・ロバーズ/妻リンダ:ジュリアン・ムーア(「巡り会う時間たち」「シッピング・ニュース」「マップ・オブ・ザ・ワールド」「クッキー・フォーチュン」「ビッグ・リボウスキ」)
/看護人フィル:フィリップ・シーモア・ホフマン「セント・オブ・ウーマン~夢の香り~」「パッチ・アダムズ トゥルー・ストーリー」/性のカリスマ伝道師フランク・マッキー/トム・クルーズ(「コラテラル」「ラスト・サムライ」「マイノリティ・リポート」「バニラ・スカイ」「アイズ・ワイド・シャット」「レインマン」/名司会者ジミー・ゲイター:フィリップ・ベイカー・ホール/コカイン娘クローディア:メローラ・ウォルターズ/まじめな警官ジム:ジョン・C・ライリー/天才少年スタンリー:ジェレミー・ブラックマン/もと天才少年ドニー:「カラー・オブ・ハート」「シビル・アクション」「ウワサの真相 ワグ・ザ・ドッグ」/昔の天才少年ドニー:ウィリアム・H・メイシー

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コメント





含むコメントです。ご注意を。

ネタバレ質問についてですが、
①飛び降りと●●●の関係については全く考えたことなかったですが、
予告とか伏線だったという見方もできるのではないかと思いました。

②この作品の前フリとして、3人の殺人犯の名前と地名の一致・ダイバー(職業はバーテンダー)と消防隊員の関係・飛び降りた息子と両親の夫婦喧嘩がもたらした悲劇の3つのエピソードが出てくるわけですが、これらはいずれも「奇妙な偶然の一致はありうる」ということを述べています。
このことがメインの群像劇に繋がっていくわけです。

新旧天才クイズ少年とその親がもたらす影響・憎しみを伴う親子関係・夫婦の一方の不倫といったものがパラレルになっており、同じような歩調で進行していくという偶然性についての前フリと考えられます。

ちんとんさんがこの作品を大変気に入っていらっしゃるようで、
私としても大変うれしいです。
P.T.アンダーソン監督作品では今のところ『マグノリア』が一番好きですが、
その他の作品もなかなかですよ。

投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/07/07 23:37

多感な奴さん、コメントありがとうございます。

ネタバレ質問ですが、私の考え過ぎかもという気がしてきました。

前フリの3つの話ですが、「奇妙な偶然の一致はありうる」以上の何かがあっても良いんじゃないかなんて考えていたのです。オムニバスなんだからそれは当たり前じゃないと思っていたのです。でも、私はもともとオムニバスだと知って見たからそう思ったのであって、何の情報もなく見る人には必要。まっさらな状態で見るほうが正道ですしね。

パラレルの部分は本当に上手に作られていると感心しました。上手で綿密な作りと、しっかりたテーマ。すごい監督ですね。オムニバス制覇を目指して次は『彼女を見ればわかること』と思っていたのですが、『ブギーナイツ』と『パンチドランク・ラブ』も「見なければリスト」登録です。

投稿: ちんとん | 2005/07/08 10:21

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ポール・トーマス・アンダーソン監督・脚本作品(1999年・米) 出演: ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズ、メリンダ・ディロン、フィリップ・ベイカー・ホール、フィリップ・シーモア・ホフマン、ウィリアム・H・メイシー、ジュリアン・ムーア、ジョン・C・ライリー 他 L.A.郊外を舞台とした群像劇。関連がないと思われたいくつかのストーリーが同時に進行し、少しずつ関連が明らかになっていく。そして状況が全体的に悪化していき絶望的になったところで、極めて衝撃的な「出来事」が起こる。その後に... [続きを読む]

受信: 2005/07/07 22:57

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