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2005/06/02

『キャッツ』"CATS"と『サンセット・ブルバード』"Sunset Boulevard"


 ミュージカルのことを書きたくなった。

 初めて見たミュージカルが『CATS』だった。イギリスで生活を始めてすぐの頃に見に行った。

 それほど大きくない劇場に入ると、そこはゴミ置き場。しかもそのゴミは、実物よりかなり大きい。それが目の前に雑多に、しかも芸術的に置かれている。急に自分が猫のサイズになったのだと知らされる。おかしな空間に入り込んでしまったという臨場感に圧倒された。

 写真で見たり、テレビで垣間見たりして期待していた猫達が、期待以上の動きで踊り回った。子どもの頃にディズニー映画を見て、わくわくした時の気持ちに似たものがわき上がってきて、それが観劇中ずっと持続していた。

 しかし、ストーリーは気落ちするものだった。グリザベラが本当に心底、汚らしく、醜く見えた。ロンドンの観客には白髪の老夫婦が多い。そういう人たちはどう思って見ていたのだろう。若さを懐かしく思う気持ちがあったとしても、あそこまで老醜を突きつけられたら気分が落ち込むのではないだろうか。本場のミュージカルを見て、感激は大きかったのだが、何か割り切れないものも残った。

 その後、CDを聞く機会があった。そのグリザベラは全然違う印象だった。歌っていたのは、初演の時のElaine Paige。つやのある声。生まれ変わりたいという老醜でなはなく、若者が持つ「夢」と同じような響きで希望を語っていた。それだけすばらしい青春を過ごすことができたからこそ、もう一度生まれ変わりたいと思えるのだろうと、老いた猫に重なった、若き日の美しい猫の姿が見えるようだった。

 その後、思ってもない機会が訪れた。そのElaine Paigeが『サンセット・ブルーバード』を演じるというのだ。まさに「若い男に捨てられる老いた女優」という役を演じるのだ。Elaine Paigeにとっても、『CATS』の初演からは20年近くの年月が流れている。どう演じるのだろうと思いながらも劇場に足を向けた。

 結果は、良かった。すばらしかった。思わず立ち上がって拍手をしてしまった。まわりもどっと立ち上がった。観客総立ちとはこのことだろう。

 ノーマの女優だった花の時代は過ぎたが、本当のファンはまだいる。執事がずっと陰で慕ってきたほどの魅力がまだそこにはある。そういうストーリーが心から納得できた。理屈ではない。いや、ミュージカルを理屈で見ていると、逆の結論になることも多い。声がその結論を方向を決めるのだ。

 舞台の感動は、大きい時は映画の感動よりスケールが大きい。しかし、いろいろな要因で、同じ演目であっても印象が全く変わってしまうことがある。あまりにもすばらしいものを見てしまうと、恐くて、次の上演に足を向けることができなくなってしまう。

 でも、また見に行きたくなってきた。

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コメント

『CATS』は日本で(笑)、劇団四季が上演しているのを5~6回くらい観に行きました。

グリザベラが歌う「メモリー」に思わず涙しました。
ストーリーはハッキリ言って「暗い」ですね。
でもなぜだかまた観に行きたくなってしまうミュージカルです。

ずっと前から聞きたかったんですが、ちんとんくんはドールハウス(?)の屋根の上で何をしようと目論んでいるのでしょう?

投稿: つっきー | 2005/06/06 05:28

つっきーさん、いつもコメントありがとうございます。

つっきーさんは、劇団四季のを5~6回も観られたのですか。私も最初に行きたいなと思ったのは劇団四季のものだったのですが、行かないままロンドンで観ることになってしまいました。

写真ですが、ちんとんと一緒に山荘に出かけた時のものです。そこの郵便受けを見て「今日はここに泊まる」と言っているところなんです。

投稿: ちんとん | 2005/06/06 21:26

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