『レインマン』"Rain Man"
心が温かくなる話。でも、なぜ温かくなるのかを説明するのはちょっと難しい。だいたい、財産のことだけ考えて、あとさきも考えずに自閉症の人を病院の外に連れ出してしまうチャーリーは浅はか過ぎる。あんな彼なら危ない事業で破産しても、ちっともおかしくない。
しかしその彼が、レイモンドの「こだわり」に振り回され、自分の軽薄さが招いたごたごたに頭を抱え、「こっちがおかしくなりそうだ」とわめき出し、それでもあたふたしながら"兄の世界"に合わせていく様子を見るに至ると、スクリーンのこちら側で見ている私としては、おかしさのほうが勝ってきて吹き出してしまう。事態は深刻なのだが…。
存在も知らなかった自閉症の兄と、それに対する知識もない弟が、2週間ほど困難な旅をして、愛情を感じるようになるという話は荒唐無稽だ。何の説得力も持たない。しかもチャーリーはあまりにも短絡的で考えが浅い。しかし、実はこの浅はかさこそが、"知的な人々"の考え深さに勝っていて、兄の世界に短期間で触れることが可能になった要因だと思い至る。
だんだんと、高機能自閉症の兄を持つ彼がうらやましくさえなってくる。記憶もない幼い日に遊んだ良い思い出を年の近い兄が鮮やかに記憶して語るのを聞くのはどんな心地よいことだろう。"知的な人々"ふうの"考え深さ"を持ち合わせてしまっている私は、このあたりまできてやっと、チャーリーと一緒に「温かい気持ち」になれるのだ。
思い出したくもない記憶をずっと頭からぬぐい去ることができずに積み重ねていく人たちの心の中はどんなふうになっているのだろうといったことは考えもせず、そんな思いに浸った。
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1988年
監督:バリー・レヴィンソン(「ワグ・ザ・ドッグ ウワサの真相」「バグジー」)
音楽:ハンス・ジマー(「ラスト・サムライ」「グラディエーター」「ハンニバル」「プリンス・オブ・エジプト」「ザ・ロック」「ライオン・キング」「ドライビング・MISS・デイジー」)
レイモンド/ダスティン・ホフマン(「ネバーランド」「ワグ・ザ・ドッグ ウワサの真相」「ムーンライト・マイル」「クレイマー・クレイマー」「卒業」)
チャーリー/トム・クルーズ(「コラテラル」「マグノリア」「ラスト・サムライ」「マイノリティ・リポート」「バニラ・スカイ」「アイズ・ワイド・シャット」)
スザンヌ/ヴァレリア・ゴリノ
*「」内はその人の作品のうち見たことのあるものの題名
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コメント
いい作品ばかりをご覧になっているようで、相変わらず「素晴らしい」と唸ってしまいます。
レビューに書かれている通り、弟の短絡的な浅はかさが兄に近付く一番の近道だったことがなんとも面白いですね。
医者がその知識を総動員して兄とコミュニケーションを図ろうとしても、時間ばかりがかかってしまいそうです。
時に人と付き合うときは、相手の懐に飛び込んでいく潔さが必要な場合もあります。
もちろん玉砕してしまう例もたくさんあるでしょうが、強引に心の扉をこじ開ける必要がある例もあるんだなと思わせてくれました。
投稿: つっきー | 2005/05/23 20:52
つっきーさん、いつもコメントありがとうございます。
以前は、新しいものばかり追っかけていたのですが、今は、アカデミー賞受賞作品をちゃんと見ておこうかなという気がしてきています。
たぶん、普通は玉砕するでしょうね。「心の扉」も、この場合、「開く」というよりは、覗かせてもらったという程度じゃないのかなという気がします。チャーリーのほうは全開になっていましたね。
レイモンドが発する、「あーあ」という意味で、他人事のように発する「オッ、オー」という脱力させられる相づち。耳に残ってしまって、しばらくニヤニヤして過ごしてしまいました。
投稿: ちんとん | 2005/05/25 08:46
こんにちは。
この映画は確かに説明するのは難しいですが、心が温まる映画ですよね。
ホフマンの演技がすごかったのが、とても印象的でした。
よろしかったら、こちらにTBさせて頂きますね。
投稿: かんすけ@シアフレ.blog | 2005/07/12 15:29
かんすけさん、はじめまして。
コメントとTBありがとうございます。
無茶な話でもあるのですが、本当に心温まる作りになっていると思います。
こちらからもTBさせていただきますね。
投稿: ちんとん | 2005/07/14 17:10