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2005/05/30

『コラテラル』"Collateral"


 ロサンジェルスの日没から夜明けまでの時間が、きれいな映像と魅力的な音楽によって表され、映画全体を覆う。そして、大きすぎる人造物である大都会が、小さな人間の夢もその生い立ちも飲み込み、人々を疲弊させていく。大都会という舞台装置が、映像と音楽が映画全体を包み込む。

 ストーリーはサスペンスとアクションに満ちている。筋の運びと、妙に交錯する場面の切り替わりにハラハラさせられる。ストーリーも音楽も緩急に満ちている。「急」の部分に挟まれる「緩」の部分である殺し屋ヴィンセントとタクシー・ドライバー、マックスの会話ひとつひとつが味わい深い。同じテーマの会話が別の人物とでは少しだけ違う形で繰り返されたり、同じ人物が違う状況で、少し違った文脈で再び語られたりする。

 夢も能力もあるのに動き出せないマックス。最初から夢を持つ環境に育たなかったヴィンセント。2人はどこかで響き合い、わずかなミクロのひずみ程度のささやかさでわかりあい始める。だからマックスはあんなすごい役目も果たすことができてしまうのだろう。それと同時に、殺人マシンのようなヴィンセントにも、どこかヒビが入り始めるのだ。

 都会の道路を横切るコヨーテの目が光る。実に象徴的だ。

2004年/監督:マイケル・マン「ショーシャンクの空」"The Shawshank Redemption"マジェスティック」「グリーンマイル」「プライベート・ライアン」
/ヴィンセント:トム・クルーズ「ラスト・サムライ」「マイノリティ・リポート」「バニラ・スカイ」「アイズ・ワイド・シャット」「マグノリア」「レインマン」/マックス:ジェイミー・フォックス/アニー:ジェイダ・ピンケット=スミス「マトリックス・リローデッド」「マトリックス・リボリューション」

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2005/05/23

『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』"Lemony Snicket's A Series of Unfortunate Events"


 子どもの頃、『不思議の国のアリス』がとても恐かった。その本の近くに行っただけで、表紙がうわっと広がって不思議な、理解できない広がりを持った世界に取り込まれてしまうのではないかと心配だった。年月が経ち、いつしかその恐怖が消えた頃、その世界は魅力的なものに変わった。

 そして、そんなことを感じていたこともすっかり忘れていた今、この映画を見た。レモニー・スニケットの世界は懐かしい感覚を思い出させてくれるものとして私の中に飛び込んできた。蛇の館も、蛇と戯れる子どもも、断崖絶壁の横にはりついたあぶなっかしくも魅力的な家も、そして焼け落ちた家も、その家が建っていた街も、すべてが心の底からわくわくしてくるものだった。画面を静止させておいていつまでも細部をのぞき込んでいたくなるような、そんな世界が広がっていた。

 望遠鏡(spy glass)はどういう意味を持つのだろう。なぜ、あの人たちはそれを持っていたのだろう。きっとシリーズを通して読んで、初めて意味を持つものなのだろう。

 あの不思議な望遠鏡はひょっとすると、現実世界と隣り合わせの「世にも不幸な世界」への入り口なのかもしれない。反対向きにしたら、「世にも幸せな世界」に戻ることができるのではないだろうか。でも、もうしばらくの間、不幸の側を覗いていたいと思った。

2005年/監督:ブラッド・シルバーリング「シティ・オブ・エンジェル」「キャスパー」「ムーンライト・マイル」/オラフ伯爵:ジム・キャリー「ブルース・オールマイティ」「マジェスティック」「トゥルー・マン・ショー」「ライアー・ライアー」「エターナル・サンシャイン」/レモニー・スニケット:ジュード・ロウ「クローサー」「コールドマウンテン」「ロード・トゥ・パーディション」「スターリングラード」「A.I.」「リプリー」「クロコダイルの涙」「オスカー・ワイルド」「ガタカ」/クラウス・ボードレール:リアム・エイケン(「ロード・トゥ・パーディション」「グッドナイト・ムーン」/ヴァイオレット・ボードレール:エミリー・ブラウニング/ミスター・ポー:ティモシー・スポール(「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」「クロコダイルの涙」「チキンラン」「バニラ・スカイ」/ストラウス判事:キャサリン・オハラ/モンティおじさん:ビリー・コノリー「ラスト・サムライ」/警官:セドリック・ジ・エンタテイナー「ディボース・ショウ」/ジョセフィーンおばさん:メリル・ストリープ(「めぐりあう時間たち」「ミュージック・オブ・ハート」「母の眠り」「マディソン郡の橋」「クレイマー、クレイマー」/サニー・ボードレール:カラ&シェルビー・ホフマン

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2005/05/20

『ベイビー・トーク』"Look Who's Talking"


 たまたまムービー・チャンネルで見た映画。それが、ばかばかしいのに、おもしろくて、目が離せなくなった。

 会計士のモーリーは不倫相手の子どもを妊娠し、タクシードライバーのジェイムズの車で陣痛が始まる。ジェイムズは心はやさしいのだが、「無料」のものを活用するのが好きな、かなりうさんくさい男。おかしなきっかけと思惑から、ジェイムズはモーリーのベビーシッターになる。

 一方、モーリーは赤ん坊マイキーの父親として最適な男を求めてデートをするが、出会うのはどうしようもない男ばかり。

 おきまりの展開なのだが、赤ん坊が大人っぽい会話をし続ける設定がおもしろい。大人から見ると普通の赤ん坊だが、赤ん坊同士はお互いに通じる「大人の」話をしているらしい。それも生まれた時から。そして、この赤ん坊の声、なんとあのブルース・ウィリスが担当しているのだ。それにしても、赤ん坊の表情がまるで演技をしているように上手に撮れている。悲しい顔や怒った顔ばかりでなく、うんざりした顔、あきれた顔、照れる顔など、どうやって撮ったのだろう。

 続編があるらしい。全部、見てみたくなってしまった。

 ところで、IMDbというアメリカの映画のサイトがあるのだが、その掲示板でこの映画がめちゃくちゃにこき下ろしてあって、それがまた笑えた。おせっかいにもリンクを張ってしまった。まあ、確かに陳腐と言えば陳腐な映画ではあるのだけれど。(苦笑)

1989年/ジェイムズ:ジョン・トラボルタ「シビル・アクション」「マイケル」「サタデー・ナイト・フィーバー」「キャリー」/モーリー:カースティ・アレイ/マイキーの声:ブルース・ウィリス「アンブレイカブル」「隣のヒットマン」「シックス・センス」「アルマゲドン」「フィフス・エレメント」 *「」内はその人の作品のうち見たことのあるものの題名

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2005/05/18

『レインマン』"Rain Man"

 心が温かくなる話。でも、なぜ温かくなるのかを説明するのはちょっと難しい。だいたい、財産のことだけ考えて、あとさきも考えずに自閉症の人を病院の外に連れ出してしまうチャーリーは浅はか過ぎる。あんな彼なら危ない事業で破産しても、ちっともおかしくない。

 しかしその彼が、レイモンドの「こだわり」に振り回され、自分の軽薄さが招いたごたごたに頭を抱え、「こっちがおかしくなりそうだ」とわめき出し、それでもあたふたしながら"兄の世界"に合わせていく様子を見るに至ると、スクリーンのこちら側で見ている私としては、おかしさのほうが勝ってきて吹き出してしまう。事態は深刻なのだが…。

 存在も知らなかった自閉症の兄と、それに対する知識もない弟が、2週間ほど困難な旅をして、愛情を感じるようになるという話は荒唐無稽だ。何の説得力も持たない。しかもチャーリーはあまりにも短絡的で考えが浅い。しかし、実はこの浅はかさこそが、"知的な人々"の考え深さに勝っていて、兄の世界に短期間で触れることが可能になった要因だと思い至る。

 だんだんと、高機能自閉症の兄を持つ彼がうらやましくさえなってくる。記憶もない幼い日に遊んだ良い思い出を年の近い兄が鮮やかに記憶して語るのを聞くのはどんな心地よいことだろう。"知的な人々"ふうの"考え深さ"を持ち合わせてしまっている私は、このあたりまできてやっと、チャーリーと一緒に「温かい気持ち」になれるのだ。

 思い出したくもない記憶をずっと頭からぬぐい去ることができずに積み重ねていく人たちの心の中はどんなふうになっているのだろうといったことは考えもせず、そんな思いに浸った。

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1988年
監督:バリー・レヴィンソン(「ワグ・ザ・ドッグ ウワサの真相」「バグジー」)
音楽:ハンス・ジマー(「ラスト・サムライ」「グラディエーター」「ハンニバル」「プリンス・オブ・エジプト」「ザ・ロック」「ライオン・キング」「ドライビング・MISS・デイジー」)
レイモンド/ダスティン・ホフマン(「ネバーランド」「ワグ・ザ・ドッグ ウワサの真相」「ムーンライト・マイル」「クレイマー・クレイマー」「卒業」)
チャーリー/トム・クルーズ(「コラテラル」「マグノリア」「ラスト・サムライ」「マイノリティ・リポート」「バニラ・スカイ」「アイズ・ワイド・シャット」)
スザンヌ/ヴァレリア・ゴリノ
*「」内はその人の作品のうち見たことのあるものの題名

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2005/05/17

『ローワン・アトキンソン・ライブ』"Rowan Atkinson Live in Boston"

 1991年にローワン・アトキンソンがボストン大学でライブを行った時の録画。

 テレビシリーズの『ミスター・ビーン』に入っている短編もあるが、アメリカの観客の反応があまりにも良いので、こちらのほうがさらにおもしろいものになっている。保守的なボストンでよくそこまでの題材を披露したと感心し、観客もよく反応したと、重ねて感心してしまった。

 ネタをひとつ紹介したい。『歓迎のことば』で、悪魔に扮したローワン・アトキンソンが出てきて、地獄にやってきた人たちを整列させていくところがある。「強盗、盗人…それから弁護士、君たちはこちらに並んで」といった具合に。そして、「クリスチャンはこっち」、「残念だったね。ユダヤ人が正しかったんだよ」と憎々しげにやるのだ。熱狂的に受けていた。

 『ミスター・ビーン』にいつも出てくるもう1人の地味な男性。名前を知らないのだが、彼も出演していた。彼の存在がローワン・アトキンソンの存在感を引き立てていることがよくわかる。あまりの悪ふざけに、かなりショックを受けているのだが、ギクッとしながらもそんな様子は見せないようにしているところの微妙な演技。決して不満を口に出さない。あくまでも紳士的に、我慢強く、そして礼儀正しく。それなのに、それが火に油を注ぐこととなり、ストーリーのおかしさが増す。イギリス的笑いだ。そしてその笑いがアメリカに受け入れられている。実に興味深いビデオだ。

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 収録されているのは以下の作品。歓迎の言葉/体罰死/ナザレの奇跡/透明人間/負けるが勝ち/デートの基本/試合後の男たち/それはクシャミで始まった/こんな友達と一緒だと/王様になる方法/ドラムは最高
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1991年
ローワン・アトキンソン(『ビーン』『ラブ・アクチュアリー』『ライオン・キング』『ジム・ヘンソンのウィッチズ』『ブラック・アダー(TV)』『ミスター・ビーン(TV)』)
*『』内は見たことのある作品

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2005/05/16

失礼な!…日本人を茶化しただけのワンシーン

本筋と関係なく挟まれる日本人らしき人物を茶化しただけのワンシーンが、ハリウッド映画にはよく出てきます。

ささやかな怒りを込めて、ステレオタイプな日本人が出てくる場面を書き留めておくことにしました。『ラスト・サムライ』や『ロストイン・トランスレーション』のような日本がテーマになっているものは除きました。

思いつくたびに更新していこうと思います。「こんなのもあるよ」というコメント歓迎。映画の題名も教えてね。
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●『ゴジラ』
松田聖子がちょい役で出てきた。ビルが崩れてくるパニックの中でタクシーの運転手に「私はショッピングに行きたいの!」と繰り返し叫んだ。「ショッピングのことしかない」に加えて「まわりが見えない」日本人の典型。

●『ラッシュ・アワー』
エレベータで乗り合わせた、危機感ゼロ、バーバリーの小物を身につけた日本人とおぼしきアジア人。

●『ノッティング・ヒルの恋人』
ホテルマンにキスをするとんちんかんな日本人のおじさん。

●『アルマゲドン』
説明を理解しない日本人見学者達。

●『マイハート・マイラブ』
エレベータで、ドアが閉まりかけているのに、開けてもくれず、詰めてもくれない背広で寡黙な日本人ビジネスマンの集団。

●『サンタクロース』(題名が定かではない)
子どもと2人で過ごすことになったクリスマス・ディナー。料理に失敗して結局デニーズに入ったのだが、そこにいたのは、背広に身を固めた男ばかりの日本人の集団。クリスマスに男ばかりでファミレスで過ごす集団って日本人のイメージなのか。

●『トゥルーマン・ショー』
みんなが息をのんで見つめるテレビの感動的場面を前にして、英会話の練習のように家族が声をそろえて、出てくることばを繰り返しているお茶の間の日本人。

●『デイ・アフター・トゥモロー』
異常気象で、大きな雹が降り始めた東京、おかしな屋台が並んでいる。パニックの中で、携帯で家に遅くなった言い訳の電話をしているサラリーマン。

*つっきーさんの「つっきーの徒然草」『Virus』で日本人の出る場面がバッサリ切られている海外公開版のことが細かく紹介されていて、大変、興味深かったのでリンクして、ご紹介します。

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2005/05/09

『マイ・ハート、マイ・ラブ』"Playing by Heart"

 6つのストーリーがそれぞれに進行し、最後に1つになる。『ラブ・アクチュアリー(2004年)』に似たオムニバスの作品だが、『マイ・ハート・マイ・ラブ』のほうが最後に1つになった時の「ああ、そうだったのか」が大きい。

 ひとつひとつのストーリーにはあまり説得力がないのに、なぜか、それぞれの人物設定とその反応や言動に共感できる。それぞれの女性の性格も境遇も年代も全然違うのに、どの女性の気持ちにもすんなり入り込める。そこがこの映画の良さだと思う。

 オムニバスを生かした映画だ。見終わって、ほっとした気分になれる。「オムニバスもの」制覇のため、『マグノリア』も見なければ…と思ってしまった。
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1999年
監督:ウィラード・キャロル
ポール/ショーン・コネリー(「小説家を見つけたら」「エントラップメント」「ザ・ロック」「グッドマン・イン・アフリカ」「理由」「薔薇の名前」)
ハナ/ジーナ・ローランズ(「グロリア」)
グレーシー/マデリーン・ストウ
ロジャー/アンソニー・エドワーズ
ヒュー/デニス・クエイド
ジョーン/アンジェリーナ・ジョリー(「17歳のカルテ」)
キーナン/ライアン・フィリップ(「クルーエルインテンション」「ラストサマー」)
メレディス/ジリアン・アンダーソン(「Xファイル」)
トレント/ジョン・スチュワート
ミルドレット/エレン・バースティン(「エクソシスト」「女の叫び」)
マーク/ジェイ・モーア(「シモーヌ」「ペイ・フォワード[可能の王国]」)
*「 」内はその人の作品のうち見たことのあるものの題名

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