『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』"The Life of David Gale"
死刑制度の問題点が提起され、サスペンスタッチで話が進む。死刑を4日後に控えた死刑囚デビッド・ゲイルは本当に有罪なのか。インタビューアーとして指名されたベッツィーはそこに何を見出すのか。哲学を教える大学教授として優秀で、知的ではあるが、人間としてはごく普通に欠点も持つデビッド・ゲイルのたどった道が見えてくる。
台詞が緻密に計算されてストーリーに組み込まれている映画だ。本筋とは関係のなさそうな大学での講義の内容や、テレビ出演でのディベート、酔っぱらって吐くことばにいたるまで、思想の断片が記されている。伏線となっている部分でもあるのだが、気づく人はほとんどいないだろう。私は、2度見て初めて、そこここで語られている言葉に意味があることに気づき、あっ!となった。
ネタバレ、反転して読んでください。ここから→最後の最後のどんでん返し、オフレコ・ビデオの意味。これは無実の死刑囚を救うことができずに傷ついているベッツィーを、心の痛みから解き放つ「自由への鍵」だったのだと思う。つまり、「死刑執行に間に合わなかったのは君の責任ではない。それも私の計画の内だったんだ」というメッセージ。
適当なところでビデオを発見させる役目はダスティがしっかり果たす。弁護士もグル。だから、インタビューアーが誰であってもこの計画は失敗はしなかっただろう。彼女が選ばれた理由は、このオフレコ・ビデオの秘密が守れること。自分の計画のために利用したジャーナリストの心の痛みにまで配慮して行動したデビッドに、それまでの不完全で飲んだくれだった彼とは違った、苦しみの中で別の次元へと成長した人間を感じた。
理屈を好む、知的な人間らしい生き方の選択がみごとに描かれている。その分、感情に訴える面が少なくなっているが、こういう描き方もありだと思うし、私は好きだ。
*死刑制度が描かれている映画には他にこんなものがあります。
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コメント
こんばんは。
やっとこの作品の感想を書く気になり、アップしました。
2度観ると、デビッドのセリフの中に多くの伏線が張られていることに気付きますね。
私など弁護士のセリフまで伏線に聞こえてしまいました。(笑)いや、マジで伏線だったのかも。
6年間、刑務所で暮らすうちにデビッドは確かに人間的に成長したと思います。
成長したからこそ、デビッドには・・・と思わずにはいられません。
トラックバックさせていただきました。
投稿: つっきー | 2005/05/11 19:33
つっきーさん、コメントありがとうございます。
「成長したからこそ、デビッドには」という思いはわかります。
ただ、私は、こういう知的な人間像というのはわからないでもありません。論理的整合性を求めて悩み抜き、自分の気持ちを整理し、心理を分析し、納得したところで、感情をそこに納めることに精神の安定を求めることができる人間。デビッドはそういう人間なのではないかと思います。そして、この脚本家、あるいは監督もそういう人を知っていて、理解できる人間なのではないかと思います。
弁護士のセリフ、伏線がいっぱいでしたね。細かく計算されていて、すべてが伏線みたいな映画だったと思います。
投稿: ちんとん | 2005/05/16 10:47
こんにちは。映画DVDで一度見ました。「私は、2度見て初めて、そこここで語られている言葉に意味があることに気づき、あっ!となった。」でもこの映画は二回以上観たほうがよさそうですね。(笑)「オフレコ・ビデオの秘密が守れること」なるほど!デビッド・ゲイルの言葉をもう一度振り返ってみたいと思います。おそらくこれは、深層を知ったベッツィーも彼が亡くなった後に行ったことなんでしょうね。素晴らしい作品との出会いに感謝です。
投稿: ETCマンツーマン英会話 | 2013/04/09 08:25