『シャイン』"Shine"
みどころはたくさんある。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番に込められた気持ち、ピアノが伝授されていく過程、父親の"愛情"など。しかし、それだけでは語りきれない暖かさがここには流れている。表にははっきりとは出てこないこの部分について書いてみたい。
この暖かさの源は、このストーリーがギリアンの目で描かれていることにある。ロンドン時代の恩師に手紙の代筆をするかのようにデイヴィッドに語らせる場面があるが、この映画のもとになったストーリーはあの手法で語られ、描かれていったのだろう。
成功した友、ロジャーの演奏を心の底から感心し喜ぶデイヴィッド。それを見つめるギリアン。海で裸になって無邪気に泳ぐ彼。それを砂浜で見つめるギリアン。この目を通して描かれているから暖かいのだ。
子育てを終えたギリアンは、デイヴィッドの人生のほうも後半にさしかかったところで彼と出会う。しかし彼女はそれぞれの時代に出てきた別の女性に自分の目を重ね合わせていたのだろう。少年時代のパトロン的役割を担う作家の女性、レストランで彼を暖かく受け入れる女性、そして、病院から外へ連れ出した女性、彼女達には共通した、彼を見つめる暖かい目がある
自分が出会う前の、自分が関わってこなかった時代の彼をもう一度包み込むような愛情で見つめ直し、パズルのピースを埋めるようにして回復への道を一緒に歩む。デイヴィッドはギリアンに出会って初めて子ども時代をやり直し、忘れてきたものを拾うことが可能になったのだ。
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1995年
監督:スコット・ヒックス(「ヒマラヤ杉に降る雪」)
デイヴィッド・ヘルフゴッド(大人)/ジェフリー・ラッシュ(「恋におちたシェイクスピア」「エリザベス」)
ノア・テイラー
デイヴィッド・ヘルフゴッド(青年)/アレックス・ラファロウイッツ
*「 」内はその人の作品のうち見たことのあるものの題名
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コメント
こんばんは~。
鑑賞時に書いた自分の感想を引っ張り出してきて,早速TBさせていただきました。
「ギリアンの目」のとらえ方に,なるほど~,と頷くことしきり…。私がこの映画を好きな理由が分かりました。
投稿: バウム | 2005/04/05 23:09
ばんわー。この映画観たはずなんだけど、
ちんとんさんの記事を見てもぜんぜん思い出せません・・・。
独特の視点で書いてるからかな。
ちなみにジェフリー・ラッシュは『ディボース・ショウ』にも出てましたよ。
そんなに出演時間は長くなかったですけど。
投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/04/06 20:53
>バウムクウヘンさん
人生の後半にさしかかっているからこそ持つことのできた愛情がしみじみと感じられました。監督が女性かなと思ったのに、違っていたので、ああこれはギリアンの目なんだと気がつきました。トラック・バックありがとうございました。とてもおもしろく読ませていただきました。
>多感な奴さん
あらすじを全く書かない形で書いてみました。ギリアムもあとのほうで少し出てくるだけなので、これを読んでも、思い出せないでしょうね。違う映画を見ているような感覚かも。
あのカウボーイハットの人ですか、ジェフリー・ラッシュ。言われるまで全然気がつきませんでした。
投稿: ちんとん@ホームビデオシアター | 2005/04/06 22:27
『社員』・・・もとい『シャイン』は良い映画ですよね。(ベタなギャグですみません)
ギリアンをはじめとする女性の温かい目線で描かれているというのはとても素晴らしいご指摘です。
なんでこんなに波乱に富んだデイヴィッドの人生が優しい気持ちで観られるのか不思議だったのですが、これで納得です。
実話に忠実かどうかはわかりませんが、デイヴィッドは女性運には恵まれていたんですね。(笑)
ただ一点、『アマデウス』を観たときにも感じたんですが、「父親」の存在だけは特別に描かれていると感じました。モーツァルトのように音楽的に優れた人には共通して「脅威」というか「畏怖」を感じる存在が一人はいるのかもしれませんね。あ、別に音楽家に限らないかも・・・。
投稿: つっきー | 2005/04/09 11:30
つっきーさん、コメントありがとうございます。
父親は強烈な方のように描かれていましたね。しかし、私としては、母親があまりにも影が薄い存在として描かれていたことが不思議でなりませんでした。描く側の母親への静かな批判が入っていたのかななんて深読みしてしまっています。
投稿: ちんとん@ホームビデオシアター | 2005/04/09 18:50
はじめまして。
私はこの映画は父親の強烈に歪んだ
愛情がとても印象的でした。
そのおかげか女性の視点はまったく
もって気にならなかったです。
そういう視点もあるのですね。
勉強になりました。
投稿: もと | 2005/04/20 23:00
もとさん、コメントありがとうございました。ブログにも寄らせていただきました。
父親のことはいろいろ考えてしまいますよね。デイヴィッドの才能はユダヤ人社会とその有力者によって育てられ、支えてもらってきたわけですが、父親はどうも、その狭い社会の中で浮いた存在だったらしいことが描かれています。その分、気持ちが家族と息子のほうに強すぎるほど向かってしまったのでしょう。
こんな父親たまらないと思う反面、なんかかわいそうにもなってきます。
投稿: ちんとん | 2005/04/21 21:31