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2005/04/17

『カッコーの巣の上で』"One Flew Over The Cuckoo's Nest"

!!ネタバレ注意!!
結末はぼかしてあるけれど、ネタバレすると思う。映画を見ていない人は読まないほうがいいよ~。
!!ネタバレ注意!!

 とても興味深い内容だった。1960年代の精神病院の状況を批判している。しかし、描かれている内容が管理社会と人間の尊厳といった他の問題にも敷衍して考えることができるものなので味わい深い。

 『カッコーの巣の上で』という題に表わされるように、入院患者達は巣の中で庇護されて生活している。婦長は穏やかで、感情の乱れの片鱗も見せることのない実力者だ。絶対的な論理と権威で君臨している。

 患者達は個性的で、無邪気で、表情豊かで、明るい。そこに型破りなマークが加わり、波紋が広がる。それまでは、自分を解放できなかった患者達も、野球のワールドシリーズを見たいという意思表示ができるようになり、バスケットボールを楽しむようになる。「遠足」に至っては実に生き生きとしている。「精神学会の博士」として紹介される場面での患者達の表情は実にそれらしく見えて、笑ってしまう。

 入院してまもなく、問題を起こしたマークの処遇について会議が開かれ、刑務所に送り帰そうということになる場面がある。その席上、婦長が「(刑務所に送るのは)他人に問題を押しつけるにすぎないので不本意だ。自分たちで救えると思う」と発言する。これこそが落とし穴だったのだが、ここで私は「なんだ、この婦長さん本当は良い人なんじゃない」と思ってしまった。

 婦長のこの「思い」こそが、実は落とし穴であったことが、最後に、ビリーの件ではっきり見せつけられることになる。婦長は間違った母性愛の象徴のように見える。「子供達」をがんじがらめに縛り付け、「良い子」のままに支配下に置こうとする。患者達はいつまでたってもその庇護の下に置かれ、母性のほうも飛び立つことを望まない。その結果があの悲惨な結末を招く。

 婦長が本当の悪者に見えないのは、この「母性愛」に鍵があるのではないだろうか。マークが患者に示し、自己解放に一役買った「父性」的なものもマークと一緒に葬り去られてしまった。しかし、父性によって傷ついていたチーフが最後に自分を取り戻し、解放していく姿には救いを感じる。

 カッコーは託卵(他の鳥の巣に卵を産み付ける)する鳥だ。したがって「カッコーの巣」など存在しない。この病院は存在するはずのない「巣」なのだ。
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1975年
監督:ミロシュ・フォアマン(「僕たちのアナ・バナナ(出演)」「アマデウス」)
マーク/ジャック・ニコルソン(「イージー・ライダー」「イーストウィックの魔女たち」「シャイニング」「恋愛小説家」「アバウト・シュミット」)
婦長/ルイーズ・フレッチャー(「クルーエル・インテンション」「エクソシスト」)

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コメント





が含まれると思われるコメントです。ご注意を。

『カッコーの巣の上で』、ラストのマークの顔は凄かったですよね。
自ら蒔いた種ではあったわけですが、
なんともやりきれない感じがしたものです。

婦長は心理学用語でいう「Great Mother」なのだと思います。
良かれと思ってやっていても過保護であったり、抑圧していたりする母性です。

少し『es』に似ているなぁとちんとんさんの記事を読んで思いました。
いや、『es』が似ているんですけど(笑)。

投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/04/17 22:49

多感な奴さん、コメントありがとうございます。

「グレートマザー」というのはユングの心理学に出てくる用語なんですね。昔話を説明する時にも使われているようで、ざっと検索しただけでもおもしろい話ばかり芋づる式に出てきて、もっと知りたいと思いました。

それから、確かに『es』に書かれている囚人側の心理と似たような動きが見られますね。あの実験は正しかったわけで…。あ、こっちは事実に基づいてもいないのかな。

ラストのマークは悲惨でしたね。別の展開ってなかったのかなあ、なんて思ってしまいます。

投稿: ちんとん | 2005/04/18 00:19

相変わらず良い映画を観ていらっしゃるので、コメントせずにはおれませんでした。(笑)

『カッコーの~』は私も大好きな作品ですので、大急ぎで観直して、感想を書いて、トラックバックさせてもらいたいと思います。

でも本当に言いたいことはすでにちんとんさんが書かれておいでなので、それ以上に書くことがあるかどうかが不安ですね。

投稿: つっきー | 2005/04/20 08:24

最近の映画は「こんな見せ方があったのか」という驚きがあって楽しめますが、名作として残っている映画はやはり、しっかりとした良さがありますね。トラックバック楽しみにしていますね。

投稿: ちんとん | 2005/04/20 21:02

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