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2005/03/16

『羊たちの沈黙』"The Silence of the Lambs"

 気味悪い映画であることは事実だ。しかし、そういう映像の衝撃や連続殺人鬼の存在感も薄まってしまうほど、閉鎖病棟でのレクター博士とクラリスの、カードで切り札を切り合うような切迫した対話に圧倒された。

 人肉食嗜好者のレクター博士は異常であるが、その異常さがずば抜けているのと同じくらい知的能力も高い。自分の精神分析をしようとする専門家など家畜程度の知能の持ち主に見えるであろうことも容易に想像が付く。

 一方クラリスは、最初の面会冒頭で、博士がクラリスを試す目的で発した不躾な質問に、臆せず、まっすぐに答える。これは女性上院議員が同種の質問に答えなかったこととは対照的だ。率直なだけではない。知的に、簡潔に自分のことを述べる。深層心理をえぐり出され、感情的乱れを見せても、それを振り捨て、すぐに自分の側の質問に戻る。そんなクラリスは、レクター博士にとっておいしい果物のようであっただろう。ズズズーッと音を立てて生肉を喰う時のように、レクター博士がクラリスの精神的過去を味わって、喰らおうとしているように見える。

 これはレクター博士にとっては一種の「愛」なのではないか。書類をクラリスに渡す時、博士の指先がクラリスの指先をなぞる。この場面を見て、私はやはりという思いを深くした。レクター博士はクラリスの「羊」が消えていないことを知っている。それをどう「料理」しようとするのか…。

 絶対見たくなかった『ハンニバル』だが、もう見るしかない。
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1991年
監督:ジョナサン・デミ
クラリス/ジョディ・フォスター(「フライトプラン」「パニック・ルーム」「コンタクト」」「ダウンタウン物語」)
ハンニバル・レクター博士/アンソニー・ホプキンス(「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」「日の名残り」「ハンニバル」「白いカラス

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コメント

おぉーっ、アカデミー賞主要5部門を制覇した名作の登場ですね。
この映画はホラー苦手のうちのダンナさまもあまりのレクター博士の強烈さにアテられて、苦手意識を克服して感動すらしたという実に珍しい作品です。

バッファロー・ビルもえげつないことをしますが、同じえげつないことでもレクター博士がやると芸術的にすら感じるのはなぜでしょう?
恐ろしいかな、私はレクター博士がクラリスに興味を抱くのを観て、嫉妬すら感じてしまいました。っていうくらいにレクター博士には畏敬の念、カリスマ性を感じます。

レクター博士は確かにクラリスに「愛」を持っています。
単なるサンプルに対する興味以上のもの、それはやはり「愛」でしょう。ゆえに私もクラリスに嫉妬の感情を抱いてしまったのかもしれません。
それくらいにレクター博士は魅力的なのです。

この魅力は原作をお読みになると、もっともっと深く理解できると思います。映画では描ききれなかったレクター博士のいろんな側面が見られて面白いですよ。

この後、『ハンニバル』をご覧になるというので、そのときのレビューを楽しみにしております。

投稿: つっきー | 2005/03/17 05:14

とうとう観てしまったのですね、『羊たちの沈黙』を。
私が観たときはまず、
シリアル・キラーを捕まえるために
シリアル・キラーにお伺いをたてるというプロットにタマげました。
そしてちんとんさんやつっきーさんが書かれているような
レクター博士とクラリスの微妙な関係・・・。
ハマりました。

アンソニー・ホプキンスが素晴らしいですよね。
あの意味深な上目使いと穏やかな口調がなんとも。
その後の『ハンニバル』『レッドドラゴン』も
劇場公開する度に観に行きました。
どれも好きな作品ですが、
1つだけ選べと言われたら『ハンニバル』かな。

投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/03/17 20:28

見てしまいましたよ、『羊たちの沈黙』。

アンソニー・ホプキンスの口調、目、姿勢、穏やかさ、すべてがすばらしい。血がドバーッをものともせず2度続けて見てしまいましたよ。ハマリますね。早速、本を買いに行ってきたのですが、売り切れでした。すぐにでも読みたかったのに。

でも…。今日、『ハンニバル』を見たのですが、『羊たちの沈黙』ほどには良いと思えませんでした。レビュー載せようかどうしようか迷っているところなんです。

投稿: ちんとん | 2005/03/17 21:40

『ハンニバル』はあまり合わなかったようですね。
レクター博士の動向としては
『羊たちの沈黙』は静、『ハンニバル』は動で、
後者を観るとレクター博士ったら、やっぱ悪い人なのねって
思ってしまいますね。
そこら辺割り切って彼の美学に付き合える人は
面白いかと思います。

ちんとんさんのように登場人物の関係とか心情を
しっかり観るタイプの方は『羊たちの沈黙』の方が
惹かれるんでしょうね。
私は最後の数十分の刺激的な映像が
アタマから離れなくて、そういう意味でも
『ハンニバル』が一番記憶に残ってますね。
ラストもウィットが効いてて面白かったし。

投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/03/17 22:59

>ちんとんさま、多感な奴さま
つっきーもですね、『ハンニバル』はあまり印象に残らなかったんですよ。
『羊たちの沈黙』を静のサイコ・スリラーと位置付けるなら、『ハンニバル』は動を通り越してアクション・スリラーかなって感じでして・・・。(苦笑)

どちらの作品もレクター博士は優雅に(←ここ重要)えげつないことをやってくれているんですが、レクター博士の周囲がうるさいんです。せっかくゲイリー・オールドマンのような曲者演技派スターを起用しているのに、全体的に「軽い」感じが否めなくて。

でも相変わらず私のレクター博士への「愛情」には変わりがないので、これはクラリス役がジョディ・フォスターからジュリアン・ムーアに代わったことに対する違和感からくるのか・・・?
『ハンニバル』に対して私には偏見のようなものがあるのかどうか知りたくて、ちんとんさんのレビューを待とうと思ったんですね。

多感な奴さん同様、ラストの展開は目が離せませんでしたよ。レクター博士はやっぱりクラリスを「愛」しているんだなと嫉妬もしましたしね。(笑)

投稿: つっきー | 2005/03/18 01:30

多感な奴さん、つっきーさん、コメントありがとうございます。

昨晩、書いたものを載せるかどうかだいぶ考えていたのですが、一晩寝かせての今朝、やっぱり載せることにしました。

どこが物足りないと感じたか、書きたいと思ったからです。せっかくわかりやすい形で表現したものなのに、そんなところが見たいと注文されてもということを言っていることになるのかもしれませんが。

さて、これから『羊たちの沈黙』の本に取りかかります。

投稿: ちんとん | 2005/03/18 19:49

おはようございます♪
トラバ&コメントありがとうございました。

やはりこの作品は連続殺人犯はあくまでエピソードのひとつで、レクターとクラリスとの“せめぎ愛”が見所かと(笑

またお邪魔しますね。

投稿: 耕作 | 2006/03/30 04:36

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