『フォーン・ブース』("Phone Booth")
公衆電話であっても、横で電話が鳴ったら思わず受話器を取ってしまうだろう。しかし、そのあとは、たとえ脅迫されても「ばかな…」ガチャンで終わる可能性が高そうに思う。しかしそこに娼婦が登場して騒ぎ立て、さらに騒ぎ立てる人数が増えたら…。
スチュは、静かに考えるチャンスを失う。横でこれだけ騒ぎ立てられたら平静な状況分析はできない。観客の心も一挙に「これは大変なことになった」と高まっていく。荒唐無稽な話なのに、冒頭で観客の心はつかまれ、ぐいぐいと引きずり込まれていく。うまい仕掛けだ。
2度目に電話が鳴った時、受話器を取ろうとするスチュの前を通行人がさりげなく横切っていく。ささいな、「妨害」というにも足りないものだが、それを避けて受話器を取らなくてはという意思が働くため、制御する方向に気が回らなくなる。娼婦の、「受話器を置け」という「妨害」も実は、スチュを受話器にしがみつかせる方向に働いているのだ。
もともと口先三寸で生きてきたスチュだから、犯人が望んだ以上のことばで、娼婦を遠ざけ、警官を遠ざける話術を巧みに操ってしまう。そこが悲しく、またおもしろい。さっそうと登場した交渉人を制し、レイミー警部が前面に出るのがまたはらはらの原因となるのだが、切れ者というよりは、ゆっくり考える人情派タイプで、体の大きい彼だからこそ生きてくる場面がある。「もうすぐ弁護士が来る」というセリフにこめられた気持ちを、彼は体全体で表現している。
コリン・ファレルの熱演はすばらしい。しかし、筋運びの巧妙さと、エキストラも含む計算しつくされた動きのすべてがコリンの演技を支える方向に向いているからこそ可能になった熱演だと感じた。
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2003年
監督:ジョエル・シューマカー
脚本:ラリー・コーエン
スチュ/コリン・ファレル(「マイノリティ・リポート」)
レイミー警部/フォレスト・ウィテカー(「パニック・ルーム」)
パメラ/ケイティ・ホームズ(「ギフト」)
ケリー/ラダ・ミッチェル
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コメント
ばんわー。
いやぁ、ちんとんさんは記事書くの上手ですねぇ。導入部読んだだけでウマいなぁと思いました。私などはいつも簡単なあらすじから記事を書くんですけど、あらすじだけでも意外と時間がかかってしまって・・・。
余計なことから入ってしまいましたが、楽しんで頂けたようで良かったです。うまく受話器にしがみつかせているという指摘、鋭いですね。2度目の電話を取ってしまってからの流れはホント面白いです。
レイミー警部とスチュ、そして影で操る電話の声のやりとりのシーンは刺激的でしたね。レイミー警部が取調べをする時は怒鳴ったりしないでじっくり落とすタイプでしょうね。「落としのレイミーさん」とか呼ばれてたりして(笑)。フォレスト・ウィテカー好きだなぁ。
投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/03/14 21:49
ほめてくださってありがとうございます。なんか、はずかしいなあ。
多感な奴さんのブログに出てきた作品が、私の見たいものの候補にかなり入ってきています。今回もそのひとつでした。
レイミー警部、小首をかしげるところがとても良い味を出していますよね。「落としのレイミー」、いいなあ。シリーズになったりして。
投稿: ちんとん | 2005/03/14 23:26
ばんわー。
次は『セルラー』どうですか。
これもけっこう評判いいですよ。
って、私が宣伝しても何も貰えませんが(笑。
そうそう、フォレスト・ウィテカーといえば、
『パニック・ルーム』『スモーク』なんかも
良かったなぁ。
投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/03/15 22:13
多感な奴さん、こんばんは。
『セルラー』、電話モノ(新ジャンルをでっち上げる会)ですね。『パニック・ルーム』は見ました。『フォーン・ブース』を見て、あ、あの人だとすぐわかりました。
今日は、意を決して『羊たちの沈黙』を見たところです。見たいと思ってためらっていた恐そうな映画が見られるようになってきているのは、他の人のブログを見ているおかげかな。『羊たちの沈没』などというパロディもあるみたいで、思わず手にとって見てしまいました。
投稿: ちんとん | 2005/03/16 00:21