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2005/03/31

『es[エス]』"Das Experiment

 支配する側(看守)とされる側(囚人)の役割を与えられた普通の人々が、普通の人でなくなっていく過程が描かれている。2週間の予定の心理実験が、モニターの監視のもとで行われるが、36時間にしてすでにコントロールできない事態の兆候があらわれてくる。

 役割を忠実に守ろうとする気持ち、それを支える知能、正義感、他人の不幸を見過ごせない気持ち、自由を尊ぶ気持ち、緊張をほぐすための遊び心、危険を回避するための恐怖心。これらすべてがマイナスの方向に動いていき、歴史的に繰り返されてきた人類の過ちをトレースするかのように事態が動いていく。

 この事態の要因となる気持ちは人間が普通に持っている気持ちだ。だから、観客としては自分の弱さが、そして善意さえも責められているような気持ちにさせられる。いったいどうすれば良かったのか。一番の悪役が一番の被害者なのかもしれない。彼はこのあとどう生きていけば良いのだろう。

 本物のスタンフォード大学での実験は、これとはだいぶ様相が違う。「ベースとなった」と言うほどには似ていない。アメリカは、こういう実験をやってみようということの実現が可能であるのと同じくらい、「自由」が危険を抑止するために働くようになっている国でもあるのだから…。

 とはいえ、実験の報告を読むと、教授自身も実験の過程で自分がおかしくなっていっていることを認めている部分があることがわかる。また、1日15ドルしかもらっていないのに、看守役のほうは超過勤務手当も要求せずに残業を含む職務を喜んで遂行したといった記述もある。

 映画のほうが本物の実験より、ドラマチックに恐ろしいことが進行する。しかし、スタンフォード大学の実験のほか、アイヒマン実験、ジンバルドーの実験などのことを知ると、本物の実験のほうがずっと恐ろしいという気もしてくる。それを、映画的に表現するとこういう形になるのだろう。うまく作られた、本当に恐い映画だと思った。

参考サイト:Stanford Prison Experiment
(このサイト、この実験とは無関係の事件の写真などが混じっているので注意が必要)
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2001年(ドイツ)
タレク(77号):モーリッツ・ブタイプトロイ
監督:オリバー・ヒルシュビーゲル
原作:マリオ・ジョルダーノ

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コメント

『es』観たのですね。
個人的には精神的にしんどい映画ナンバーワンかもしれません。ちゃんと実際の実験も調べてらっしゃる所に感心しました。

投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/03/31 22:39

多感な奴さんのお話をうかがって、観る気になった映画です。血ドバーッはそれほどではなく、それ以上のものが描かれている作品でした。「精神的にあんなにキツいものはなかなかない」というのもおっしゃるとおりでした。

実際の実験を調べたのは、「ちゃんと」というよりは、「そんなはずはない」という気持ちからです。でも"そういうこと"は実際には起こらなかったとしても、その描き方には、正視できない内面を振り返りそこにある「真実」に気づかせるという意味での真実があったと思います。

いつもコメントありがとうございます。

投稿: ちんとん | 2005/03/31 23:44

ちんとんさんと私は少し似ているのかなぁと思って嬉しくなりました。(迷惑ならごめんなさい)

レビューの中で参考サイトとして挙げられているサイトは私も『es』を観た後に読んだサイトです。
ちゃんと辞書を引いて読んだわけではないので、ちんとんさんほどちゃんと理解はしていないと思いますが・・・。

やっぱりこの映画が実話を元にしていると聞くと、実際はどんな実験だったのか、すごく気になってネットで調べました。
映画では「実話」よりデフォルメされているとはいえ、映画の中で起こったようなことが、「もし実験があと数日続けられていたら」起こらないとは限りません。

人の心の弱さ、自分が「正しい」と思っていることの根拠のもろさを思い知らされました。

投稿: つっきー | 2005/04/01 02:49

つっきーさん、コメントありがとうございます。

レビューを見ていると似ているなあと思うところが多々あります。

でも、私は「ハンニバル・ダイエット」効果が1週間あったという点、つっきーさんと違うかも。「esダイエット」効果は1日くらい。「映画でダイエット!」というプログラムを作ろうかな。

今は『時計仕掛けのオレンジ』を見ようかどうしようか迷っているところです。

投稿: ちんとん@ホームビデオシアター | 2005/04/01 19:11

ちんとんさん、いいなぁ。
「ハンニバル・ダイエット」ができるなんて・・・。
きっと『CUBE』でもダイエットできたんでしょうね。
もし「映画でダイエット!」というプログラムを作るなら、お手伝いしますよ。
ちんとんさんが確実にダイエットできる映画をたくさん観てますから。(ホラー好き/笑)

『時計仕掛けのオレンジ』は多分、ダイエット効果1日分くらいだと思います。
記憶があいまいなので、DVDで観直してみることにしました。(実は買っておいてまだ観てなかった・・・)
観直したら感想書きますので、ちんとんさんもご覧になったら、トラックバックし合いましょう!

投稿: つっきー | 2005/04/02 12:06

ばんわー。
映画でダイエットできるなんて羨ましいです。
私はどんな映画を観ても食欲が落ちたりしないです。
あまり後を引かないタイプだと思います。
でもそのかわり内容とか忘れっぽいですね。
一番ダイエット効果がありそうなのは
私のブログで紹介したドキュメンタリー映画、
『死体解剖医ヤーヌシュ ~エデンへの道~』でしょうかね。
これはハンパじゃないです。全てリアルです。

『時計じかけのオレンジ』は暴力シーンがいろいろあるんですよね。
そんなに血ドバじゃないですけど、
特に女性は嫌な感じを受けるシーンとかありますね。
暴力がテーマの映画なのでしょうがないと思いますが
ベートーベンの音楽とかビジュアルとか
ブラックユーモアとかが好きで何回も観ている映画です。
キューブリック監督の作品なので面白いことは面白いですよ。

投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/04/03 23:21

そうそう、トップページの写真が変わってますね。
春だなぁ(笑)。

投稿: 多感な奴@CINEMA IN/OUT | 2005/04/03 23:24

お邪魔しまーす。
「身体的暴力は禁止」という約束も、転がるように過激化する精神状態の中では無効なんですね。
アイデアは確かに斬新ですが、私の「二度観るこたぁないぞリスト」の筆頭に挙がる映画です。
せめて、監視役のメンバーが試験が始まる前にどんな人格だったのかをもっと描いて欲しかった。それならまだ救いがあったんですけれど。

ちんとんさんの書いておられることのほうが、正直言って映画より面白かったです(笑)

投稿: バウム | 2005/04/04 00:31

>つっきーさん

『時計仕掛けのオレンジ』はダイエット効果1日ですか。どうしようかなあ。体重減少は歓迎ですが、楽しく食事ができなくなるのがどうも…。元気な時を見計らって見ることにします。

>多感な奴さん

私は後を引くタイプなんでしょうね。

『死体解剖医ヤーヌシュ~エデンへの道~』の文章、読ませていただきました。おもしろそうな映画だと、かなり興味を引かれました。しかし、ダイエット効果もかなりありそうですね。

トップページの画像を変えたことに気づいてくださってありがとうございます。花見酒をなめているところです、私じゃなくて「ちんとん」が。

投稿: ちんとん | 2005/04/04 16:52

>バウムクウヘンさん

 確かにそうですね、こういう描き方をするのなら、実験前の人格をもう少し描いて欲しかったと私も思います。

 本物の実験のほうは、参加した人たちが学生だったこともあり、看守側が囚人同士の待遇に差を付けて、仲間割れをするようにし向けたりと高度な方法を工夫する様子が見られます。また、牧師が面接をしたり、弁護士が必要なのではと言う申し出がされたりするのですが、囚人役側は疑心暗鬼になってきてしまい、何を信じて良い状態かわからなくなってため、そういう外からの申し出を断るといったこともおこっています。

 凄惨な展開にするほうが、ビジュアル的にわかりやすいけれど、「何を信じて良いかわからない状態」というもっと空恐ろしい混乱は、この映画では描けていなかった、あるいは、描こうとしていなかったと思います。本当はそこが一番怖いのにという思いは残りました。

投稿: ちんとん | 2005/04/04 16:54

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